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アウシュビッツ絶滅収容所リモートガイドツアーを世界中どこからでも:博物館とイスラエル企業が開発

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

第二次世界大戦時にナチスドイツが支配下の地域でユダヤ人を差別、迫害して約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコーストの象徴的な存在の1つがアウシュビッツ絶滅収容所。アウシュビッツ絶滅収容所では欧州からのユダヤ人やロマ、政治犯ら110万人以上が殺害された。

アウシュビッツ絶滅収容所は現在でも世界中からの観光客や欧米、イスラエルの学生らがホロコースト教育の一環として訪問しており、2019年には過去最高の230万人以上がアウシュビッツ絶滅収容所を訪問していたが、2020年は世界規模でのパンデミックの影響で、アウシュビッツ絶滅収容所博物館も一時閉鎖しており、昨年の訪問者数は50万人程度だった。それでも現在でもアウシュビッツ絶滅収容所は世界的な観光名所の1つである。アウシュビッツではガイドがツアーでバラック、処刑場、囚人が到着して選別された線路の引き込み、独房の跡地など悲惨な出来事が起きた場所を案内して解説してくれる。

だが新型コロナウィルス感染拡大が止まらず、訪問者数はコロナ前のように戻っていない。1947年にアウシュビッツ博物館は開設され、パンデミックまで一度も閉鎖したことがなかったが、これからいつまた閉鎖しなくてはいけなくなるかもわからない。そこでアウシュビッツ博物館ではホロコーストの歴史とアウシュビッツで起きた出来事を伝えるために、イスラエルの企業AppsFlyerと連携してネットで世界中どこにいてもバーチャルでアウシュビッツ絶滅収容所を回ることができるサービスを開発していくことを明らかにした。スマホやテレビやパソコンの画面を通じてアウシュビッツ絶滅収容所をガイドがオンラインで案内して説明してくれる。

アウシュビッツ博物館では新型コロナ感染拡大前からオンラインやバーチャルでの展示に注力していた。仮想現実(VR)技術で紹介したり、オンラインで展示をしてホロコースト教育の教材を提供したり、パノラマで展示をしている。今回のようにガイドがバーチャルに博物館をツアーするのは初めてのようだ。

このようにオンラインでも多くのサービスを提供しており、それなりのリアリティは感じる。だが、それでも人間処理工場と呼ばれる殺戮施設だったアウシュビッツに実際にいるわけではない。当時の絶滅収容所の臭い、熱さや寒さ、不衛生な環境、恐怖や悲しみといった人々の感情、病気の苦しみ、愛する人との別れ、不安、飢え、強制労働、暴力、虐待、殺害といった本当の地獄を理解しているのは、体験者だけだ。

それでも例えば冬の寒く雪が降る季節にリアルにアウシュビッツを訪問すると、当時もこのくらい寒かったのだろうということが実感でき、そのような寒さの中で同じ場所に立ってみると、囚人服一枚のみで何時間にもわたって空腹のまま点呼で立たされていた囚人の辛さをなんとなく感じることができる。また、真夏の暑い時に訪問すると、まさにこの同じ場所で暑さの中で喉の渇きに耐えながら強制労働させられた囚人の苦しみが伝わってくるものだ。研究でもオンサイトでリアルな収容所を訪れるのと、オンラインで見るのではだいぶ印象も研究への気持ちも異なってくる。現代の我々に求められるのはリアルであれ、オンラインであれ、当時の様子を思い描く想像力だ。アウシュビッツは日本から直行便もなく簡単に訪問することができない。お金も時間もかかるうえに、訪問して展示されている写真やバラックの跡を見て説明を聞いても決して気持ちの良いものではない。だがそれでも75年以上前にこの場所で110万人が殺害されたのだということが実感できる。

このように最新技術が発達して、誰もが世界中のどこからでも簡単にスマホでアウシュビッツにアクセスできるようになったが、機会があれば一度訪問して肌で感じてみていはいかがでしょうか。

紹介動画(ロングバージョン)

紹介動画(ショートバージョン)

真冬のアウシュビッツ

写真:ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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