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ギリシャ 隣国トルコの軍事ドローン対策に懸念「戦闘機よりも圧倒的に優位な攻撃ドローン」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

実戦でも活用され、軍事ドローンで世界をリードするトルコ

トルコは、軍事ドローンの開発技術も世界的にも進んでいる。エルドアン大統領も積極的に多くの周辺諸国にトルコ製の軍事ドローンを売り込んでおり、輸出している。多くの紛争でトルコの軍事企業が開発した攻撃ドローンが使用されている。アゼルバイジャンやウクライナ、カタールにも提供している。2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノ・カラバフをめぐる軍事衝突でもトルコの攻撃ドローンが紛争に活用されてアゼルバイジャンが優位に立つことに貢献した。トルコの軍事企業は攻撃ドローンの開発だけでなく、ドローン迎撃システムの開発にも注力して、攻撃から防衛まで幅広くカバーしている。

また2020年3月にリビアでの戦闘で、トルコ製の攻撃ドローンKargu-2などの攻撃ドローンが兵士を追跡して攻撃を行った可能性があると、国連の安全保障理事会の専門家パネルが2021年3月に報告書を発表していた。兵士が死亡したかどうかは明らかにされていない。神風ドローンのオペレーションは人間の軍人が遠隔地で操作をして行うので、攻撃には人間の判断が入る。攻撃に際して人間の判断が入らないでAI(人工知能)を搭載した兵器自身が標的を判断して攻撃を行うものは自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapon Systems:LAWS)と呼ばれている。実際の紛争で自律型殺傷兵器で攻撃を行ったのは初めてのケースであると英国のメディアのインディペンデントは報じていた。またトルコの軍事企業バイカル社はロシアと緊張関係にあるウクライナに同社が開発した軍事ドローン「バイラクタルTB2」を輸出していたが、これからはウクライナで生産することも発表した。「バイラクタル TB2」はウクライナだけでなくポーランド、ラトビア、アルバニア、アゼルバイジャン、カタール、アフリカ諸国にも提供している。

攻撃ドローンは「Kamikaze Drone(神風ドローン)」、「Suicide Drone(自爆型ドローン)」、「Kamikaze Strike(神風ストライク)」とも呼ばれており、標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。日本人にとってはこのような攻撃型ドローンが「神風」を名乗るのに嫌悪感を覚える人もいるだろうが「神風ドローン」は欧米や中東では一般名詞としてメディアでも軍事企業でも一般的によく使われている。

隣国のギリシャはフランスからの戦闘機導入、イスラエルからのドローン迎撃システムを検討

そのようなトルコの軍事ドローンの強化に懸念を示しているのが隣国で、トルコとは歴史的にも長年の敵国であるギリシャである。トルコがギリシャ北部との国境付近で軍事ドローン「バイラクタルTB2」の飛行試験を行っていることが「ギリシャにとって頭痛のネタになっている」とギリシャの地元メディアが報じていた。同紙によると1日に3回から4回、軍事ドローン「バイラクタルTB2」がトルコの領空で低空飛行で飛行試験を行っているのがギリシャからも確認されている。ギリシャ側には近隣に海軍基地などもあるためギリシャ側では警戒を高めているとのこと。

このようにトルコの軍事ドローンのプレゼンスがギリシャ国境付近でも高まってきた状況を踏まえて、ギリシャ側も対策としてフランスから購入した戦闘機を配置している。だがギリシャの右派政党Greek Solutionのキリアコス・ヴェロポウロス氏は「トルコ側が低コストの攻撃ドローン400機で上空から攻めてきた時に、ギリシャは200機しかない戦闘機でどうやって戦うんだ。勝ち目がない」と懸念を表明している。そしてギリシャ政府はイスラエルからのドローン迎撃システムの購入も検討している。

攻撃ドローンの大群が上空から地上に突っ込んできて攻撃をしてくることは大きな脅威であり、標的である敵陣に与える心理的影響と破壊力も甚大である。ドローンはコストも高くないので、大国でなくとも購入が可能であり、攻撃側は人間の軍人が傷つくリスクは低減されるので有益である。人間の軍人が乗って操縦する戦闘機よりも無人の攻撃ドローンの方が優位だ。低価格で味方の軍人(パイロット)が傷つくこともなく、たとえ敵に撃墜されても、別の攻撃ドローンで何回でも襲撃すれば良い。戦闘機のようにガソリン代もメンテナンス費用もかからない。それでも破壊力は強く殺傷力がある。つまり現時点では軍事ドローンを大量に保有するトルコの方が優位だ。そしてそのトルコがギリシャ国境付近で軍事演習することはギリシャにとって大きな脅威だ。

ドローン迎撃システムは、レーザー砲やアイアンドームのようなものまで多くある。一般的には上空のドローンを察知するとレーザービームやジャミングでドローンの機能を停止させる、いわゆる"ソフトキル(soft kiill)"とレーザー砲や銃で上空の攻撃ドローンを爆破する"ハードキル(hard kill)"の方法がある。攻撃ドローンが突っ込んでくる前に上空でドローンを停止または破壊する。攻撃ドローンとドローン迎撃システムはどの国においても安全保障の要の兵器の1つになっている。

▼バイカル社の攻撃ドローンの「バイラクタル TB2」

▼バイカル社の攻撃ドローンの「バイラクタル TB2」でのアゼルバイジャンによるアルメニアへの攻撃(過激な内容の動画のため年齢制限あり)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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