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77年目の国際ホロコースト記念日 アウシュビッツで式典:生存者ら最新テクノロジーの活用をアピール

佐藤仁学術研究員・著述家
2022年の国際ホロコースト記念日のアウシュビッツ絶滅収容所(写真:ロイター/アフロ)

「VRでのアウシュビッツはゲームやエンタメではありません」

1月27日はアウシュビッツ強制収容所がソ連軍によって解放されたため、国際ホロコースト記念日である。ナチスドイツによって、ユダヤ人やロマ、政治犯など約600万人が殺害された。毎年1月27日にはアウシュビッツ絶滅収容所で記念式典が開催され、ホロコースト生存者や世界中の首脳が集っている。2022年1月27日にもアウシュビッツ絶滅収容所解放77周年の記念式典が開催されていた。

2022年の記念式典の1つの特徴は式典でスピーチをしていたホロコースト生存者らが最新テクノロジーの積極的な活用を訴えていたことだった。

メレク・ジャザク氏はアウシュビッツ絶滅収容所の様子を仮想現実(VR)技術で伝えているプロジェクトについて「VRでアウシュビッツ絶滅収容所の様子を伝えられることは驚くべきことで革新的なことです。歴史的な写真、ドキュメント、映像のアーカイブを元に細かい点まできちんと伝えています。但し若い人に覚えておいてほしいのは、VRのゴーグルで覗くアウシュビッツの世界はゲームやエンターテインメントの世界ではありません」とコメント。

ホロコースト生存者のボグダン・バルトニコウィスキー氏は「スマホやタブレット、パソコンなどを使ってアウシュビッツ絶滅収容所に実際に来なくてもオンラインで個人個人がアウシュビッツの様子を知ってくれることはとても重要です。かつては欧州や世界中の方々がアウシュビッツに来ることは容易ではありませんでした。でも今では最新テクノロジーとインターネットの発展によって誰もがバーチャルでアウシュビッツ絶滅収容所の様子を見ることができます」と語っていた。

ハリナ・ビレンバウム氏は「ホロコーストの生存者らの経験や記憶が後世に残っていくことによって、将来にホロコーストと同じような悲劇が繰り返されないことを望みます。現代の社会では人種差別などが多いです。このような世界の状況で、インターネット技術が発展してきたことによって、ホロコースト生存者らの記憶や経験がデジタル化されて世界中の学校で、オンラインでホロコースト教育に使われていることに希望を見出しています」と語っていた。

「オンラインでアウシュビッツも身近になったと思います」

マリアン・チュルスキ氏は「オンラインでは様々な視点でアウシュビッツ絶滅収容所を見て回ることができます。インターネットでアウシュビッツ絶滅収容所も身近なものになったと思います。若い方々には是非、自分自身のことと思って考えてみてください。世界中の方がオンラインでアウシュビッツの様子を見ることができます。その時に"私には何ができるのだろうか?"、"私は何をすべきなのか?"と考えて欲しいです」と語っていた。

アウシュビッツ博物館だけでなく、世界中のホロコースト博物館や大学、ユダヤ機関ではホロコースト時代の貴重な文書、手紙、写真、映像、生存者や犠牲者の服、カバン、靴などの所持品のデジタル化による保管とオンラインでの公開を積極的に行っている。また生存者の記憶や体験の証言を動画で公開している。さらにホロコースト当時の様子を写真や映像を駆使してVRやオンラインで公開して、ホロコースト時代の歴史の記憶をイメージで伝えている。それらは世界中からアクセスが可能でホロコースト教育でも多く活用されている。

今年の式典も新型コロナウィルス感染拡大のためオンラインでも世界中に発信されていた。これも技術の大きな貢献である。従来は1月の寒いポーランドまで足を運んで参加していた。生存者らも高齢化が進み年々、飛行機に乗ってポーランドまで赴き、寒いなか式典に参加するのは難しくなっていく人も多かった。だがオンラインでの開催によって世界中から生存者らが自宅から家族と一緒に参加できる。式典としての一体感は感じられないが、世界中から高齢の生存者らも式典に参加できるようになった。

2022年の国際ホロコースト記念日のアウシュビッツ絶滅収容所での式典
2022年の国際ホロコースト記念日のアウシュビッツ絶滅収容所での式典写真:ロイター/アフロ

2022年の国際ホロコースト記念日のアウシュビッツ絶滅収容所での式典に参加する生存者
2022年の国際ホロコースト記念日のアウシュビッツ絶滅収容所での式典に参加する生存者写真:ロイター/アフロ

2022年の国際ホロコースト記念日のアウシュビッツ絶滅収容所
2022年の国際ホロコースト記念日のアウシュビッツ絶滅収容所写真:ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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