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高市早苗氏 安全保障の重要性語る「サイバー攻撃でブラックアウトされると日本の防衛も機能しない」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:つのだよしお/アフロ)

「相手国がミサイル発射できない状況を作る必要があります」

自由民主党の高市早苗政調会長が2021年12月にBSテレ東の「NIKKEI 日曜サロン」に出演し、幅広いテーマについて語っている。「中国の脅威対応へ防衛力強化」というタイトルで動画も公開されている。

その中で高市氏は安全保障について以下のようにはっきりとした口調で語っていた。

中国や北朝鮮は脅威になっています。領海を堂々と航海しています。特に南西諸島では中国の脅威はあります。なんと言っても日本の技術が流出しています。その結果、極超音速兵器に使われてしまっています。また中国は無人機の開発に力を入れています。

中国もロシアも衛星を破壊する実験に成功しています。サイバー攻撃も非常に非常に増えています。最悪の事態を想定すると、日本やアメリカの衛星が破壊され、海底ケーブルが切断され、またサイバー攻撃で変電所が攻撃されてブラックアウトになると日本の防衛そのものが動かなくなります。いかにこのような事態を防いでいくかの観点が重要です。

岸田首相が最近よく敵基地攻撃能力という言葉を使われます。私のイメージとしては、相手国に何か動きがあるからいきなりミサイルを撃ち込むというものではありません。日本にとっても衛星通信を妨害されて無効化されること、ジャミング(電波妨害)をかけられること、サイバー攻撃で無力化されることが脅威です。これからの日本もいきなり相手国の基地にミサイルを撃ち込むのではなく、むしろ兆候があった時に相手国の衛星を無力化したり、ジャミングをするなどして、精確に相手国のミサイルが発射できない、日本に向いて飛んでこない状況を作る必要があります。超高音速ミサイルは今の日本の技術と対空防衛では防げません。残念ながら一発目は着弾してしまいます。その後どうするかという議論になります。

また極超音速兵器には日本の優れた技術力である耐熱素材やジェットエンジンが使われています。中国人が日本の研究所や大学に入ってきて、中国に帰って極超音速兵器の開発を行っていることはインテリジェンス機関が把握しています。私たちが私たち自身の産業や暮らしを良くするために開発している技術が、私たちの身の危険を晒すことに悪用されては困ります。特許の公開も行き過ぎています。いくつかの分野で非公開にしていく必要があります。できるところから法制化していきます。

サイバースペースにおける安全保障の重要性

高市氏は2021年の自民党総裁選の出馬会見の中でも安全保障の観点からのサイバーセキュリティ対策、極超音速兵器対策、海外に再選技術が流出してしまうことを回避するための経済安全保障の重要性を訴えていた。高市氏は総裁選出馬前から明確な国家観をもってサイバーセキュリティや経済安全保障の必要性と重要性を常に訴えていた。

国家のリアルな安全保障と同様にサイバーセキュリティも国家の安全保障において重要である。サイバー攻撃による情報窃取は経済の安全保障において危機であり、重要インフラへの攻撃によるブラックアウトや原発事故などが発生した場合は国家の安全保障においても非常に危険である。

そしてサイバー攻撃では、攻撃側が圧倒的に優位で強い。サイバー攻撃は相手のシステムの脆弱性を見つけて、そこから攻撃を仕掛ける。相手を攻撃をしている時に、自分のシステムにも同様の脆弱性を見つけて、修正することもできる。サイバー防衛にとってもサイバー攻撃は効果があり、サイバースペースでは「攻撃は最大の防御」である。

さらにサイバー攻撃を受けた際に、リアルな経済や金融制裁などで反撃を行うことは、抑止になる。「対話」と「抑止」は国際政治と安全保障の基本であり、特に大国間同士では重要である。抑止の前に対話が必要だ。サイバーセキュリティがイシューとして国家間でテーブルに上がって対話が行われているうちはまだよい。お互いが相手側からのサイバー攻撃を意識していることであり、牽制を目的として対話している。そこには抑止効果もある。だが、例えば米中間では、もはやサイバーセキュリティをめぐる対話や、中国人容疑者の起訴などによる抑止では止まることなく、2020年7月には中国政府はヒューストンの中国総領事館を閉鎖してしまった。そして米国政府は対抗措置として四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖してしまい一触即発の危機になったこともある。

またサイバースペースの安全保障の維持と強化は一国だけではできない。サイバー攻撃はどこから侵入してくるかわからない。自国のサイバースペースを強化するのは当然のことだが、自国だけを強化していてもネットワークでより緊密に接続されている同盟国や他の国々を踏み台にして侵入されることがある。そのためにも、安全保障協力の関係にある同盟国の間でサイバースペースにおける「弱い環」を作ってはいけない。

同じ価値観を共有し、同等の能力を保有している国同士でのサイバー同盟は非常に重要である。サイバーセキュリティの能力の高い国家間でのサイバー同盟は潜在的な敵対国や集団からのサイバー攻撃に対する防衛と抑止能力を強化することにつながる。防衛同盟において重要なのは、リアルでもサイバーでも対外的脅威に対する安全保障だ。

そのため多国間で協力しあいながら、相互でネットワークの強化、サイバー攻撃対策の情報交換、人材育成に向けた交流などを行っていく必要がある。マルウェア情報やサイバー攻撃対策の情報交換だけでなく、平時においてもパブリックでの議論を行うことも信頼醸成に繋がるので重要である。

2021年9月27日に首相官邸でサイバーセキュリティ戦略本部の会合が開催された。今後3年間の「次期サイバーセキュリティ戦略」を決定し、「サイバーセキュリティ 2021(2020 年度年次報告・2021 年度年次計画)」を発表した。そのなかでアメリカ、インド、オーストラリア、東南アジア諸国とのサイバーセキュリティにおける連携強化も訴えていた。また日本へサイバー攻撃を行っている脅威ある国として中国、ロシア、北朝鮮の3ヶ国を初めて名指しして警戒感を示した。日本はこれら3国とは同じ価値観を共有していない。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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