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アウシュビッツ絶滅収容所で死体処理係だったユダヤ人ゾンダーコマンドの蜂起から77年

佐藤仁学術研究員・著述家
ゾンダーコマンドが死体の処理をする貴重な写真(アウシュビッツ博物館提供)

映画「サウルの息子」で有名になった同胞ユダヤ人の死体処理係だったゾンダーコマンド

第二次世界大戦時にナチスドイツが支配下の地域でユダヤ人を差別、迫害して約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコーストの象徴的な存在の1つがアウシュビッツ絶滅収容所。アウシュビッツ絶滅収容所では欧州からのユダヤ人やロマ、政治犯ら110万人以上が殺害された。

アウシュビッツ絶滅収容所は現在でも世界中からの観光客や欧米、イスラエルの学生らが社会科見学で訪問しており、2019年には過去最高の230万人以上がアウシュビッツ絶滅収容所を訪問していたが、2020年は世界規模でのパンデミックの影響で、アウシュビッツ絶滅収容所博物館も一時閉鎖しており、昨年の訪問者数は52万人程度だった。最近ではオンラインやバーチャルでの展示にも注力している。それでも現在でもアウシュビッツ絶滅収容所は世界的な観光名所の1つである。

そして1944年10月7日は、アウシュビッツ絶滅収容所の「ゾンダーコマンド」と呼ばれたユダヤ人囚人らがナチスの看守に対して反抗して蜂起を起こした日である。その蜂起から77年目になる。ゾンダーコマンドを題材にした映画「サウルの息子」も2015年に日本で公開されたので見た人もいるだろう。

ナチスドイツのユダヤ人政策は「労働を通じたユダヤ人の絶滅」の遂行だったため、労働に適さない老人や子供はアウシュビッツ絶滅収容所の到着直後に選別されてガス室で即殺害された。そしてそのガス室で殺害されたユダヤ人らの死体の処理をしていたのがゾンダーコマンドである。ゾンダーコマンドらのなかには自分の家族や両親、友人らの死体の処理をさせられる者もいた。ガス室から死体を運び出し、処理する前に金歯がないかどうかの確認を行って、金歯があったら抜いていた。そしてゾンダーコマンドに従事したユダヤ人らも、ナチスの秘密隠蔽のために、いずれ殺害される運命だった。そのゾンダーコマンドら約80人がナチスに反抗して、ガス室に火をつけるなどの蜂起を起こした。ナチスの親衛隊も3人殺害され、10人以上が負傷した。だがこの蜂起の際に約450人のユダヤ人が殺害された。そして反乱を鎮圧された後には200人のゾンダーコマンドが処刑された。

南カリフォルニア大学(USC)にあるショア財団は、ホロコーストを題材にした映画『シンドラーのリスト』の映画監督でユダヤ人のスティーブン・スピルバーグが寄付して1994年に創設された。ショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。戦後70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進み、当時の記憶も薄れていき、体力的にも証言を取るのが難しくなってきている。

そしてショア財団では、このゾンダーコマンドの蜂起を目撃していた生存者のダリオ・ガバイ氏の生前に撮影した貴重な証言動画もあり、YouTubeで世界中に公開している。

▼「サウルの息子」

▼アウシュビッツ博物館ではゾンダーコマンドが死体の処理をするところを隠し撮りされた貴重な写真とともにゾンダーコマンド蜂起を紹介している。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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