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高市早苗氏 外交・安全保障語る「日本は抑止と対処に不可欠な能力を自ら保有する。日米同盟がこれを補完」

佐藤仁学術研究員・著述家
高市早苗氏(写真:アフロ)

日米同盟を基軸に中国・北朝鮮に対峙

2021年9月17日に、自由民主党(自民党)の総裁選挙が告示された。河野太郎規制改革相、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の4名が立候補を届け出た。

9月24日には党員だけでない国民から寄せられた質問に4人の総裁選候補者が直接、回答する政策討論会がオンラインで開催された。4日間連続で開催され、この日は2日目でテーマは「外交と安全保障、環境、エネルギー問題」だった。元外務大臣、元防衛大臣の候補者もいる中で高市早苗氏は自身の安全保障と外交の持論を力強く、明瞭な言葉で語っていた。

尖閣諸島問題について

高市:まぎれもなく日本国の領土です。中国に海警法ができて不安に思っています。私は海上保安庁法を必ず改正して、必要に応じて自衛隊と共同で対応します。私たちの大切な領土をしっかりと守り抜きます。

これから10年間で大切になる国は

高市:日米同盟が基軸になりますがオーストラリア、インド、東南アジア諸国、英国、フランスなどと緊密な関係を保っていく必要があります。

特にオーストラリアは5G通信の敷設にあたって中国企業のZTEやHUAWEI(ファーウェイ)を経済安全保障上、危険だという意志表明をアメリカとともに非常に早い時期に行いました。日本もサプライチェーンリスクに非常に深刻な危機感を持っています。そのような経済安全保障と国防の観点からオーストラリアとは協調していけると思います。

これからの安全保障体制(1)

高市:北朝鮮に誤ったメッセージを与えないことが重要です。北朝鮮はアメリカ本土に届く核兵器の弾道ミサイルを開発しています。ワシントンやニューヨークを犠牲にしてまでもアメリカが日本を守ることはないだろうという誤ったメッセージを与えてしまっては北朝鮮の思うツボになってしまいます。日本自身が一定の打撃力をもっておくことは重要です。間違った考えを北朝鮮に持たせません。

これから人工衛星や無人機、情報収集能力を高めて、いかに早く日本を守るか、場合によっては反撃をするかという観点から日米同盟はとても重要です。

これからの安全保障体制(2)

高市:最悪の事態を想像してみましょう。衛星を破壊され、海底ケーブルを切断され、変電所をサイバー攻撃されてブラックアウトが起きたら、日本は手も足も出せません。日本は抑止と対処に不可欠な能力を自ら保有する。日米同盟はこれを補完するものだというのが、私の基本的な考えです。

これから人的被害を少なくするために、無人機を導入していくことをどう考えていくのかが重要です。現在、各国が競って無人機を導入しています。

アメリカとの共同プロジェクトとして衛星の防御です。場合によっては相手の衛星を妨害します。また海底ケーブルの防衛も重要なのでアメリカと取り組んでいきます。このようなところをアメリカと一緒に取り組んでいきたいと考えています。

憲法9条

高市:自衛隊を憲法9条に当然、明記します。遅すぎるくらいです。

安倍元総理の外交と防衛

高市:安倍総理の外交はお手本にしたいです。安全保障について安倍総理の実績として特筆すべきことはサイバー分野について一定の整理をしてくれたことです。日本がサイバー攻撃を受けた時、そのサイバー攻撃が武力攻撃とみなされた場合には自衛隊が反撃できる、また日米安保の対象になるという整理をしてくれました。これから日本がやらなければならないのは、その反撃を実効的に機能させるための準備、装備、訓練です。

台湾について

高市:TPPにしてもWHOにしても台湾の加盟を支援したいです。自由民主主義、法の支配というしっかりした基盤をもった地域です。台湾への支援は惜しみません。

竹島問題

高市:竹島は歴史的にも明確に日本国の領土です。これ以上、韓国に構造物を作らせない対応が重要になります。国際社会への発信が重要です。歴史的経緯は他国には伝わりにくいです。NHKの国際放送を活用して、政府も積極的に竹島、北方領土は日本国の領土であることを伝え続けることが重要です。

北朝鮮拉致問題

高市:トップ会談が不可欠です。あらゆるルートを使ってトップ会談にこぎつけたいです。アメリカなど他にも拉致被害者がいる国と連携しながら、立ち向かっていきます。

靖国神社

高市:(総理大臣になっても)参拝いたします。

最後の挨拶

高市:日米同盟は特に米軍が日本にいたら、危険なことに巻き込まれるのではないかという懸念の「巻き込まれ論」があります。一方で、アメリカが日本を見捨てて日本から出て行ってしまったら大変なことになってしまうという「おいてけぼり論」があります。非常に複雑な感情の中で日米同盟について議論が行われてきました。

米軍が存在することによる騒音や事件など負担は日本人にとって見やすいです。但し、抑止力は見えにくいです。日米同盟をしっかりと守っていきたいです。現在は、物騒な時代です。これからのゲームチェンジャーは衛星、サイバー、無人機、電磁波のような新たな分野で協力しながら開発していくことです。研究開発費用も増やしていきます。これこそが私たちが日本国を守り抜く1つの大きなポイントと思います。

サイバースペースとリアルでの安全保障と同盟の重要性

高市氏はリアルな安全保障だけでなく、サイバー攻撃から日本を守るためのサイバーセキュリティについても以前から強調している。

国家のリアルな安全保障と同様にサイバーセキュリティも国家の安全保障において重要である。サイバー攻撃による情報窃取は経済の安全保障において危機であり、重要インフラへの攻撃によるブラックアウトや原発事故などが発生した場合は国家の安全保障においても非常に危険である。

そしてサイバー攻撃では、攻撃側が圧倒的に優位で強い。サイバー攻撃は相手のシステムの脆弱性を見つけて、そこから攻撃を仕掛ける。相手を攻撃している時に、自分のシステムにも同様の脆弱性を見つけて、修正することもできる。サイバー防衛にとってもサイバー攻撃は効果があり、サイバースペースでは「攻撃は最大の防御」である。

さらにサイバー攻撃を受けた際に、リアルな経済や金融制裁などで反撃を行うことは、抑止になる。「対話」と「抑止」は国際政治と安全保障の基本であり、特に大国間同士では重要である。抑止の前に対話が必要だ。サイバーセキュリティがイシューとして国家間でテーブルに上がって対話が行われているうちはまだよい。お互いが相手側からのサイバー攻撃を意識していることであり、牽制を目的として対話している。そこには抑止効果もある。だが、例えば米中間では、もはやサイバーセキュリティをめぐる対話や、中国人容疑者の起訴などによる抑止では止まることなく、2020年7月には中国政府はヒューストンの中国総領事館を閉鎖してしまった。そして米国政府は対抗措置として四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖してしまい一触即発の危機になったこともある。またサイバー攻撃に対してミサイルなどリアルな兵器での報復を行うことは欧米の首脳は過去にも明言している。

高市氏は日米同盟以外にもオーストラリア、インド、東南アジア諸国、欧州諸国との協力にも触れていた。サイバースペースの安全保障の維持と強化は一国だけではできない。サイバー攻撃はどこから侵入してくるかわからない。自国のサイバースペースを強化するのは当然のことだが、自国だけを強化していてもネットワークでより緊密に接続されている同盟国や他の国々を踏み台にして侵入されることがある。そのためにも、安全保障協力の関係にある同盟国の間でサイバースペースにおける「弱い環」を作ってはいけない。

高市氏は日米同盟を基軸とした協力についても言及していたが、同じ価値観を共有し、同等の能力を保有している国同士でのサイバー同盟は非常に重要である。サイバーセキュリティの能力の高い国家間でのサイバー同盟は潜在的な敵対国や集団からのサイバー攻撃に対する防衛と抑止能力を強化することにつながる。防衛同盟において重要なのは、リアルでもサイバーでも対外的脅威に対する安全保障だ。

そのため多国間で協力しあいながら、相互でネットワークの強化、サイバー攻撃対策の情報交換、人材育成に向けた交流などを行っていく必要がある。マルウェア情報やサイバー攻撃対策の情報交換だけでなく、平時においてパブリックでの議論を行うことも信頼醸成に繋がるので重要である。

新たなゲームチェンジャーとしての攻撃ドローン

高市氏はゲームチェンジャーの1つとして無人機をあげていた。以前は軍事面での無人機(ドローン)の活用は偵察・監視がほとんどだったが、現在では攻撃ドローンがメインになっている。攻撃用の軍事ドローンは「Kamikaze Drone(神風ドローン)」、「Suicide Drone(自爆型ドローン)」、「Kamikaze Strike(神風ストライク)」とも呼ばれており、標的を認識すると標的にドローンが突っ込んでいき、標的を爆破し殺傷力もある。日本人にとってはこのような攻撃型ドローンが「神風」を名乗るのに嫌悪感を覚える人もいるだろうが「神風ドローン」は欧米や中東では一般名詞としてメディアでも軍事企業でも一般的によく使われている。

2020年に勃発したアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突でもトルコやイスラエルの「神風ドローン」が紛争に活用されていた。「神風ドローン」の大群が上空から地上に突っ込んできて攻撃をしてくることは大きな脅威であり、標的である敵陣に与える心理的影響と破壊力も甚大である。ドローンはコストも高くないので、大国でなくとも購入が可能であり、攻撃側は人間の軍人が傷つくリスクは低減されるので有益である。

2020年3月にリビアでの戦闘で、トルコ製のKargu-2などの攻撃ドローンが兵士を追跡して攻撃を行った可能性があると、国連の安全保障理事会の専門家パネルが2021年3月に報告書を発表していた。兵士が死亡したかどうかは明らかにされていない。神風ドローンのオペレーションは人間の軍人が遠隔地で操作をして行うので、攻撃には人間の判断が入る。攻撃に際して人間の判断が入らないでAI(人工知能)を搭載した兵器自身が標的を判断して攻撃を行う自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapon Systems:LAWS)と呼ばれている。実際の紛争で自律型殺傷兵器で攻撃を行ったのは初めてのケースであると英国のメディアのインディペンデントは報じていた。

ドローンが敵の標的を察知してから、遠隔地の人間が判断するまでに時間差があり、敵を逃がしてしまったり逆襲されることもありうるので、自律型殺傷兵器のように敵を認識したら即座に攻撃を仕掛けられる方が効率が良いという意見もある。また、遠隔地にいるとはいえ神風ドローンで攻撃する判断を行い敵を殺害する人間にも精神的な負担がある。さらに攻撃側の軍人にとっては戦場で命を落とすリスクは低減されるので、攻撃側の軍人の"人間の安全保障"は確保されるようになる。

一方で、戦場の無人化が進むとともに「キラーロボット」と称される人間の判断を介さないで攻撃を行う自律型殺傷兵器が開発されようとしている。人間の判断を介さないで標的を攻撃することが非倫理的・非道徳的であるということから国際NGOや世界30か国が自律型殺傷兵器の開発と使用には反対している。イスラエルやアメリカ、ロシアなどは反対していないので、このように積極的に軍事分野での自律化を推進しようとしている。中国はキラーロボットの使用には反対を表明しているが、開発には反対していない。

環境問題やエネルギー問題については動画をご覧ください。

▼【自民党総裁選】国民の声に応える政策討論会②「外交、安全保障、環境、エネルギー」(2021.9.24)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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