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カナダ 「ホロコーストに例えてワクチン接種反対デモ」ユダヤ団体「コロナ政策と比較するのは不適切」

佐藤仁学術研究員・著述家
(アウシュビッツ博物館提供)

「新型コロナウィルスは誰もが感染します。現在の人々の命を救うための政策と、当時のユダヤ人を差別迫害をしていた政策を比較するのは不適切です」

カナダのバンクーバーで、新型コロナウィルス感染対策のワクチン接種に反対する人たちがデモを行っていた。そのデモで、ワクチン接種に反対する人たちはナチスドイツの支配下にあったユダヤ人がつけさせられていた黄色い星を着用したり、ナチス時代のカギ十字を持ってデモに参加していた。

欧米ではワクチン接種を希望している人も多いが、政府からワクチン接種を強制されることに反対している人も多い。ナチスドイツ時代にユダヤ人に強制的に着用させた黄色い星で、ユダヤ人を差別・迫害していたように、ワクチン接種を受けていない人に対して「ワクチンを接種していない」ことが外見からもわかるようにバッチをつけさせられることを懸念して、このようなデモや抗議運動が多く行われている。そして、今回のバンクーバーでのデモが初めてではなく、欧米ではワクチン接種の強制に反対する運動や抗議、デモ、SNSの投稿では、ユダヤ人に着用させていた黄色い星を着用して抗議している。

欧米では「ロックダウンで外出が制限されたり、マスクの着用を義務付けられたり、ワクチン接種を強要させるといった、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」、「政府による強制的なロックダウンやマスク着用、ワクチン接種=ナチスドイツの全体主義」というイメージを持つ人が多い。

そして欧米では新型コロナウィルスのパンデミックの不自由な状況やマスク着用の義務化、ワクチン接種の強制をホロコーストに例えるたび、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、「ホロコーストに例えることは犠牲になったユダヤ人に失礼だ」「迫害されていたユダヤ人とは状況が違う」などと言われていつもネットで炎上している。

今回のワクチン接種に反対する人たちが、黄色い星を着用してデモに参加していたことをうけて、バンクーバーのユダヤ人団体のCEOのエルザ・シャンケン氏は「ホロコーストの歴史とその記憶を矮小化することは良くないです。政府や自治体のコロナ政策とナチスドイツのホロコーストでのユダヤ人の政策は全く違います。ホロコーストの時にはユダヤ人、ジプシー、同性愛者、共産主義者という理由で差別され、殺害されました。新型コロナウィルスは誰もが感染します。現在の人々の命を救うための政策と、当時のユダヤ人を差別迫害をしていた政策を比較するのは不適切ですし、全く違っています。ホロコーストで犠牲になった人々のことを想像してください。彼らの家族のことを想像してください。新型コロナウィルスの政策に反対して黄色い星をつけたり、ナチスのカギ十字をプラカードにすることは、彼らに対してとても失礼です」と怒りを表明していた。

ワクチン接種やコロナ対策の政策をホロコーストと比較すると、必ずネットが炎上するし、ユダヤ団体がこのように反対するコメントをして、テレビやニュースなどで報じられる。そのため、ワクチン接種に反対する人たちは、炎上して目立つことを目的に、わざわざ黄色い星を着用して、デモの写真をSNSに掲載したり、メディアに出ることによって、自分達の主張をアピールしている人も多い。

ホロコースト時代に差別標的のために黄色い星を着用させられたユダヤ人

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。黄色のダビデの星はナチスが政権を握った国や地域では、ユダヤ人を差別迫害し隔離するために、ユダヤ人には人々の目に見えるように衣服に黄色い星を縫い付けさせた。黄色は欧州では呪われた色だった。

特に西欧諸国では外見からはユダヤ人を見分けるのは困難だったため、黄色い星が縫い付けられた服を着用しているのがユダヤ人の証で、黄色い星をつけたユダヤ人は公共の場所や映画館、公園、店舗などに入ることも禁じられた。そして黄色い星は「この人はユダヤ人なので殴ったり、嫌がらせをしたりしても構わない」とわかりやすくするためのものだった。またアウシュビッツなどの収容所に貨車で移送されたユダヤ人の荷物の選別をしていた囚人は、ユダヤ人が持ってきたトランクから衣類を取り出して、それらに縫い付けられている黄色い星を剥ぎ取る仕事をしていた。黄色い星を剥ぎ取られた衣服はユダヤ人を移送してきた貨車に載せられて、戦中で物不足のドイツに送られ一般市民の古着として活用された。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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