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米国オクラホマ州共和党 ワクチン未接種者をホロコースト時代のユダヤ人の黄色い星に例えて炎上

佐藤仁学術研究員・著述家
オクラホマ共和党のFacebookより

「ワクチン接種を強要されたり、接種しないから解雇されそうな人は連絡してください」の呼びかけとともにユダヤの黄色い星

アメリカのオクラホマ州の共和党がFacebookの投稿が炎上していた。オクラホマ州の共和党では「新型コロナウィルスのためのワクチン接種を強制しようとしている雇用主がいたり、ワクチン接種を拒否したことによって解雇を迫られている従業員がいたら、副知事のマット・ピネル氏まで連絡してください」とFacebookで呼びかけていた。

欧米ではワクチン接種を希望している人も多いが、政府からワクチン接種を強制されることに反対している人も多い。そのため、このような投稿だけだったら、よく見かけるような内容だ。だが、この呼びかけとともに、ナチスドイツ時代にユダヤ人が強制的に着用させた黄色い星の画像も一緒に投稿されていた。この黄色い星の投稿で炎上している。

オクラホマ州の共和党のFacebookでの黄色い星の画像には「Unvaccinated(ワクチン未接種)」とナチスの強制収容所でユダヤ人らが番号で管理させられていたことを想起させるような「2020-ID-No V-123-666」という数字の羅列と、クレジットカードでもよく見かけるICチップの画像も掲載されていた。さらに「歴史を知らない人は必ず繰り返します」とも書かれていた。

黄色い星の上には「州内外での旅行も制限されています。飛行機に乗ることも我慢しなくてはいけないし、パブ、レストラン、クラブ、シアターにも入れません。仕事をすることも制限され、物の売買も制限され、医療へのアクセスも制限されています。皆さん、目覚めてください。このような環境に慣れて良いのでしょうか?」と書かれていた。

第二次世界大戦のナチスドイツ支配下で差別されていたユダヤ人は黄色い星を着用させられ、公的な職業を解雇され、買い物も制限され、夜間外出も禁止され、ラジオや自転車所有も禁止され、学校にも通学できなくなったことを彷彿させるかのような投稿である。

欧米では「ロックダウンで外出が制限されたり、マスクの着用を義務付けられたりといった、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」、「政府による強制的なロックダウンやマスク着用=ナチスドイツの全体主義」というイメージを持つ人が多い。

そして欧米では新型コロナウィルスのパンデミックの不自由な状況やマスク着用の義務化をホロコーストに例えるたび、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、「ホロコーストに例えることは犠牲になったユダヤ人に失礼だ」「迫害されていたユダヤ人とは状況が違う」などと言われていつもネットで炎上している。

ホロコースト時代に差別標的のために黄色い星を着用させられたユダヤ人

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。黄色のダビデの星はナチスが政権を握った国や地域では、ユダヤ人を差別迫害し隔離するために、ユダヤ人には人々の目に見えるように衣服に黄色い星を縫い付けさせた。黄色は欧州では呪われた色だった。

特に西欧諸国では外見からはユダヤ人を見分けるのは困難だったため、黄色い星が縫い付けられた服を着用しているのがユダヤ人の証で、黄色い星をつけたユダヤ人は公共の場所や映画館、公園、店舗などに入ることも禁じられた。そして黄色い星は「この人はユダヤ人なので殴ったり、嫌がらせをしたりしても構わない」とわかりやすくするためのものだった。またアウシュビッツなどの収容所に貨車で移送されたユダヤ人の荷物の選別をしていた囚人は、ユダヤ人が持ってきたトランクから衣類を取り出して、それらに縫い付けられている黄色い星を剥ぎ取る仕事をしていた。黄色い星を剥ぎ取られた衣服はユダヤ人を移送してきた貨車に載せられて、戦中で物不足のドイツに送られ一般市民の古着として活用された。

つまり、「ワクチンを接種していない人」であることを外見からもわかるように「黄色い星をつけさせられている」という形でを表明して、「自分達は政府や企業(雇用主)から差別されている」ということをアピールしている。

このユダヤの黄色い星に例えられたのも、今回が初めてではなく、もう欧米では何回もあり、その都度ネットでは「ワクチン未接種の人をホロコースト時代のユダヤ人に例えるのはおかしい」「迫害されていたユダヤ人とワクチンを接種していない人とでは置かれている状況が違う」といった声が多く上がり、ネットで大炎上している。

地元ユダヤ団体も非難「人々の命を守るシンボルのワクチンと、ユダヤ人の命の危険のシンボルだった黄色い星は違います」

今回のオクラホマ州の共和党の投稿をうけて、オクラホマ州のユダヤ団体のジューイッシュ・フェデレーションのディレクターのロバート・クラーク氏は「ホロコーストの生存者の気持ちを考えて欲しいです。愛する人を守るため、命を救うためのワクチンを接種しない人を示すシンボルが、どうしてホロコースト時代の黄色い星なのでしょうか?黄色い星は当時のユダヤ人にとって命の危険に晒されていたシンボルでした。ナチスドイツの当時の政策と現在のワクチン接種の政策を比較すること自体が不適切です。20世紀最大級の民族抹殺のホロコーストと、現在の人々の命を救う公共福祉政策が比較されること自体が悲しいし、おかしなことです。もっとホロコーストの歴史を学習してください。そして全ての人々に対して尊厳と尊敬をもって接してください。お願いします」と語っていた。

▼ジャーナリストのリース・ゴルマン氏も「こんなことはありえません」と非難。

オクラホマ共和党のFacebookより
オクラホマ共和党のFacebookより

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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