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ホロコーストで失われた19世紀欧州ユダヤの書物や巻物:米国オークションで発見され持ち主の元へ

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

アメリカのニューヨークにあるケシュテンバウムというユダヤ系の品物を扱うオークションで、170年以上前の東ヨーロッパでのユダヤの巻物や書物など17点がオークションにかけられようとしていた。

それらのユダヤの巻物や書物はルーマニア、ハンガリー、ウクライナ、スロバキアのユダヤのもので第二次世界大戦時のホロコーストでナチスドイツが侵攻してきた時にユダヤ人から奪ったもの、もしくはユダヤコミュニティのラビ(宗教家)など所有していた者が殺害されてしまったために所有者不明になったものだ。ナチスドイツはユダヤの書物や巻物のほとんどを焼き捨ててしまっていたので、とても貴重な歴史的な書物である。アメリカの司法省はこれら17点の歴史的な書物を元の持ち主に戻すことを発表した。

ニューヨーク州の弁護士のジャクリーン・カスリス氏は「これらの書物や巻物はホロコーストの時代に違法で持ち出されたものです。ホロコースト前のユダヤ人コミュニティの生活や文化を知ることができる歴史的な価値のあるもので、値段をつけて売るようなものではありません」と語っている。またアメリカ当局のHomeland Security Investigationsのピーター・フィッツハフ氏は「正しい持ち主の元に返すべきです。引き続き、どのような経緯と過程を経てアメリカに来てオークションに出されたのか調査していきます」と語っていた。

戦後70年以上が経過しホロコースト生存者らの高齢化も進み、多くの人が他界してしまった。今回の書物や巻物、他にも美術品などは歴史的にも貴重な品物だから、元の所持者を辿りやすいだろう。だがホロコーストで奪われた品物や家具などが見つかっても、持ち主を辿るのは難しいことも多い。特にホロコーストで親戚全員が殺害されてしまった人も多い。

ホロコーストの犠牲者の遺品やメモ、生存者らが所有していたホロコースト時代の物の多くは、家族らがホロコースト博物館などに寄付している。新型コロナウィルス感染拡大によるロックダウンで多くの博物館が閉鎖されてしまってからは展示物のデジタル化が加速されており、バーチャルツアーで世界中の人が閲覧できるようになっている。また当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。

欧米では主要都市のほとんどにホロコースト博物館があり、ホロコーストに関する様々な物品が展示されている。そして、それらの多くはデジタル化されて世界中からオンラインで閲覧が可能であり、研究者やホロコースト教育に活用されている。いわゆる記憶のデジタル化の一環であり、後世にホロコーストの歴史を伝えることに貢献している。

▼今回発見された書物の1つ

ケシュテンバウム提供
ケシュテンバウム提供

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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