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ホロコースト時代にチェコの収容所で若者が作っていた雑誌を描いた舞台 ブロードウェイで上演

佐藤仁学術研究員・著述家
THE LAST BOY提供

テレジン収容所で発行されていた「VEDEM」編集長は14歳

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが支配下の欧州で約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。チェコのテレジエンシュタットにあったテレジン強制収容所では、収容されていた13歳から15歳くらいまでの少年たち約100人が、隠れて雑誌「VEDEM」を発行していた。最初はタイプライターで打っていたが、30号からは手書きになった。テレジン収容所での日常生活や少年たちの気持ちを綴ったエッセイや詩、絵、歌詞などが掲載されていた。発言の自由のない収容所なのでナチス親衛隊には秘密で発行されていた。

そのチェコのテレジン強制収容所で「VEDEM」を発行していた少年たちの実話をもとにした舞台「THE LAST BOY」がニューヨークのブロードウェイで2021年7月から上演される。「VEDEM」はチェコ語で「僕たちは導く、勝利する」という意味。少年たちは金曜日の夜に集まって記事を書いた少年がそれぞれ自分の記事を読んで、みんなでその記事を聞いて確認してから発行された。編集長は14歳のペルト・ギンツ氏だった。

テレジン収容所で実際に雑誌「VEDEM」の発行をしていて、ホロコーストを生き延びて現在はアメリカに住んでいる91歳のシドニー・タウッシグ氏は、ナチス親衛隊に雑誌を没収される前に、テレジン収容所の地面に雑誌を埋めておいた。そのタウッシグ氏が舞台に出演する少年たちにZoomで当時の様子や経験を語っていた。また同氏の経験と雑誌の内容が舞台のシナリオにも大きな影響を与えている。舞台では当時、収容所で歌われていた歌も披露される。

ホロコースト生存者らの歴史を伝える記憶のデジタル化

戦後70年以上が経過しホロコースト生存者らの高齢化も進み、多くの人が他界してしまった。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。また、ホロコーストの犠牲者の遺品やメモ、生存者らが所有していたホロコースト時代の物の多くは、家族らがホロコースト博物館などに寄付している。また彼らの記憶や経験をもとにした動画、映画、舞台なども多く制作されている。今回の舞台もホロコースト生存者でテレジン収容所を生き延びた91歳のタウッシグ氏の経験や記憶をもとにしている。

欧米では主要都市のほとんどにホロコースト博物館やユダヤ博物館があり、ホロコーストに関する様々な物品が展示されている。そして、それらの多くはデジタル化されて世界中からオンラインで閲覧が可能であり、研究者やホロコースト教育に活用されている。いわゆる記憶のデジタル化の一環であり、後世にホロコーストの歴史を伝えることに貢献している。また映画や舞台などもホロコースト教育で多く活用されている。

▼舞台「THE LAST BOY」のオフィシャルトレイラー、紹介動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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