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米国共和党議員「ワクチン接種のバッジ着用はユダヤ人の黄色い星と同じ」ネット炎上・アウシュビッツも反論

佐藤仁学術研究員・著述家
グリーン下院議員(写真:ロイター/アフロ)

「食料品店でワクチン接種した従業員はバッジ着用することはホロコースト時代のユダヤ人の黄色い星と同じ」炎上

アメリカのテネシー州のノックビルの食料品店で、新型コロナウィルスのワクチン接種をした人はマスク無しで来店が可能になり、従業員でワクチン接種をした人は、ワクチン接種したことを証明するバッジをつけることになったニュースが報じられていた。アメリカのローカル紙ではよく見かけるような内容のニュースだ。

この報道に対して、アメリカの共和党の下院議員のマージョリー・テイラー・グリーン氏が「ワクチンを接種した従業員がそのロゴのバッジを着用することは、ナチスドイツ時代のホロコーストの時にユダヤ人が強制的につけさせられた黄色い星と同じようなものだ。ワクチンパスポートやマスクを強制することは、ワクチンを接種していない人への差別につながる」と自身のツイッターで投稿。

このグリーン氏の発言に対して、「マスク着用の義務化の状況をホロコーストに例えるのはおかしい」「迫害されていたユダヤ人とは状況が違う」といった声が多く上がり、ネットで大炎上している。

このグリーン氏の発言に対してアウシュビッツ博物館も「ユダヤ人がホロコーストで迫害され、ゲットーに閉じ込められ、黄色い星を着用させられ、殺害されたことを持ち出して、現在の人々の健康を守るための政策と比べて議論することは悲しいことであり、モラルの後退と知的衰退を象徴しています」と反論。アウシュビッツ絶滅収容所は欧州からのユダヤ人やロマ、政治犯ら110万人以上が殺害されたホロコーストの象徴的な収容所。

グリーン氏のコロナ対策とホロコーストの比較は2回目

グリーン氏は先日、ポッドキャストの番組のインタビューで、マスク着用を義務化することをナチス時代のホロコーストのユダヤ人差別迫害の政策にたとえて、「下院本会議場でのマスク着用の義務化は、ユダヤ人に黄色い星を着用させたナチスドイツと同じだ。そうやって人々を差別して(階級に分けて)、差別された人を列車に乗せてガス室に送っていた。それこそまさにナンシー・ペロシ下院議長がやろうとしていることだ」と発言して、こちらもネットで炎上していた。

だが、新型コロナウィルス感染拡大によるロックダウンやマスク着用の義務化をナチス時代のユダヤ人差別迫害やホロコーストに例えられるのは今回のグリーン氏の発言が初めてではない。もうここ1年くらいで何回もあり、その度に炎上している。グリーン氏は、2月には陰謀論の拡散と煽動的発言から委員会から除名処分をうけていたので、今回の発言も、「ホロコーストに例えることは失礼だ」といった炎上だけでなく、このように炎上して注目されることから「売名行為だ」いった声もあがって、いつも以上ネットで炎上している。

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。新型コロナウィルス感染拡大防止のために欧米ではロックダウンが行われており、自由な外出ができずに不自由な暮らしを強いられている人が多い。そしてそのようなロックダウンによる外出の禁止や制限で自由を奪われている現在の状況を第二次大戦時のナチスドイツに迫害、差別されていたユダヤ人の状況、いわゆるホロコーストに例えられることが多い。当時、ゲットーに閉じ込められたユダヤ人やアンネ・フランクのように隠れ家で息をひそめながら隠れていたユダヤ人に例えられやすい。

ホロコースト時代に差別標的のために黄色い星を着用させられたユダヤ人

黄色のダビデの星はナチスが政権を握った国や地域では、ユダヤ人を差別迫害し隔離するために、ユダヤ人には目に見えるように衣服に黄色い星を縫い付けさせた。黄色は欧州では呪われた色だった。

特に西欧諸国では外見からはユダヤ人を見分けるのは困難だったため、黄色い星が縫い付けられた服を着用しているのがユダヤ人の証で、黄色い星をつけたユダヤ人は公共の場所や映画館、公園、店舗などに入ることも禁じられた。そして黄色い星は「この人はユダヤ人なので殴ったり、嫌がらせをしたりしても構わない」とわかりやすくするためのものだった。またアウシュビッツなどの収容所に貨車で移送されたユダヤ人の荷物の選別をしていた囚人は、ユダヤ人が持ってきたトランクから衣類を取り出して、それらに縫い付けられている黄色い星を剥ぎ取る仕事をしていた。黄色い星を剥ぎ取られた衣服はユダヤ人を移送してきた貨車に乗せられて、戦中で物不足のドイツに送られ一般市民の古着として活用された。

そして欧米では新型コロナウィルスのパンデミックの不自由な状況やマスク着用の義務化をホロコーストに例えると、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、いつもネットで炎上している。高齢のホロコースト生存者らも当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルスのロックダウンの状況は異なると訴えている。だが、それでも欧米では「ロックダウンで外出が制限されたり、マスクの着用を義務付けられたりといった、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」というイメージを持つ人が多い。

▼グリーン氏のツイート

▼アウシュビッツ博物館の反論のツイート

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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