ホロコーストで3万人以上が銃殺された「ユダヤ人受難の地」ウクライナのバービ・ヤールにシナゴーグ開設
34000人以上のユダヤ人が銃殺されたバービ・ヤール
ナチスドイツによる600万人以上のユダヤ人やロマらを殺害した、いわゆるホロコースト。ナチスドイツが侵攻したウクライナではユダヤ人狩りは組織的に行われ、強制収容所に送られ、多くのユダヤ人が殺された。ナチスはウクライナで85万~90万人のユダヤ人を殺したと推定されている。1941年9月には、約34,000人のユダヤ人がキエフ郊外の谷間バービ・ヤールに集められ、射殺され、穴に埋められた。その後ユダヤ人がアウシュビッツなどの絶滅収容所に移送された後もロマ、ウクライナ人のレジスタンスらがバービ・ヤールで銃殺された。バービ・ヤールは現在でもユダヤ人受難の地として知られている。
ウクライナのユダヤ人が大量に銃殺されたバービ・ヤールの近くに新しいユダヤ教の教会シナゴーグが2021年5月に開設された。このシナゴーグは木で作られており、本棚のように祭壇が開いて登場するのが特徴。
ウクライナでは地元警察がナチスドイツに協力的で、ユダヤ人を逮捕し、ゲットーに送り込み、隣人から孤立させ、ユダヤ人の肉体的・精神的抵抗力を弱らせていた。そのような中でも、ユダヤ人を救っていたウクライナ人もいた。
ウクライナで初のユダヤ人で大統領となったウォロディミル・ゼレンスキーは「ホロコーストは全ての人類にとって共通の悲劇です。それでもウクライナには当時、ユダヤ人を救った英雄が2500人以上いました。諸国民の中の正義の人(ホロコースト時代にユダヤ人を救った人に与えられる称号)の業績は人間性と自己犠牲の良い例です」とツイッターでコメントをしていた。
「ホロコースト歴史のデジタル化」と「リアルな場としての記憶の伝達と追悼」
戦後70年以上が経過しホロコースト生存者らの高齢化も進み、多くの人が他界してしまった。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。またホロコーストの犠牲者の遺品やメモ、生存者らが所有していたホロコースト時代の物の多くは、家族らがホロコースト博物館などに寄付している。特に新型コロナウィルス感染拡大によるロックダウンで多くの博物館が閉鎖されてしまってからは展示物のデジタル化が加速されており、バーチャルツアーで世界中の人が閲覧できるようになっている。
欧米では主要都市のほとんどにホロコースト博物館があり、ホロコーストに関する様々な物品が展示されている。そして、それらの多くはデジタル化されて世界中からオンラインで閲覧が可能であり、研究者やホロコースト教育に活用されている。いわゆる記憶のデジタル化の一環であり、後世にホロコーストの歴史を伝えることに貢献している。
そして、現在でもユダヤ人受難の地と言われているバービ・ヤールについても多くの写真や証言がデジタル化され、イスラエルの国立ホロコースト博物館(ヤド・バシェム)やバーチャルライブラリーなどでも多くのデジタル化されたコンテンツを展示しており、研究が進められている。
記憶のデジタル化はホロコースト教育や研究、後世への歴史の伝達として、とても重要な役割を期待されているが、今回のようにバービ・ヤール近郊にシナゴーグが開設され「リアルな場としての記憶の伝達と追悼」が後世に伝えられていくことも重要である。
▼バービ・ヤールの虐殺
▼新たに開設されたシナゴーグ
▼ウクライナで初のユダヤ人で大統領となったウォロディミル・ゼレンスキーのツイート