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英国政府「自律型殺傷兵器の定義」について貴族院からの質問に回答

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 英国政府が2021年2月に貴族院からのAI(人工知能)に関する様々な質疑に回答していた。その中で自律型殺傷兵器に関する質問と回答があった。「キラーロボット」とも称される自律型殺傷兵器とはAIを搭載した兵器が人間の判断を介さないで標的を攻撃して、標的の人間を殺傷する兵器のことを指すことが多い。人間の判断を介さないことから非倫理的であるということで国際NGOや世界30か国が自律型殺傷兵器の開発や使用に反対している。英国政府は自律型殺傷兵器の開発には反対していない。

 貴族院からの質問で「英国政府は他の同盟諸国と同じように"自律型兵器"の定義を行っていないのではないか。まずは"自律型兵器"の定義を行うことが重要なのではないか」というものだった。

 これに対して英国政府は「たしかに我々は国家間での"自律型兵器"に関する議論に参加していますし、"自律型兵器"の使用に関する道徳や倫理の観点から積極的な役割を果たそうとしています。さらに"自律型兵器"に関する公式の定義がないことの問題の大きさも理解しています。特にいわゆる自律型殺傷兵器 (Lethal Autonomous Weapon Systems :LAWS)については難しいと考えています。最近では国防省が、無人化と自動化システムをどのように区別するのか、または倫理的なフレームワークでどのように扱うのかといった自律化システムに関する多くの定義を出しました。この定義については、英国政府はNATOと同じ定義にしており、同盟諸国と足並みを揃えています。ただこれらの定義は自律型システムに関する幅広いカテゴリーを包含しており、自律型殺傷兵器だけではありません。自律型殺傷兵器の定義については英国だけでなくもっと他国と協議して国際的な一致した定義が必要です。自律型殺傷兵器という用語自体も使う人たちによって一貫していません。ある人は人間の完全なコントロールがない兵器であると定義し、ある人はある程度の人間の関与がある半自律的な兵器だと定義しています。そして、そのような定義は技術的に複雑でわかりにくく、非常に主観的です。英国の国防省にも自律型殺傷兵器に関する運用的な完全な定義はありません。また国際社会でも自律型殺傷兵器に関する合意された定義はありません。英国政府は新たに登場しようとしている兵器の使用についても国際人道法は順守します。しかしAI技術の軍事分野における活用と、それに伴う責任の重要性が増してきていることも理解しています。国防省では現在、この分野における政策と定義の見直しを行っており、新たなAI戦略を発行しようとしています。AIセンターではAIの軍事分野で攻撃でなくて、ロジスティックや情報伝達など非軍事分野での活用に向けた研究開発とテスト、兵器への統合を行っております。また攻撃だけでなく、防衛においても倫理的なAIの活用を行っていく予定です」と回答していた。

 英国政府が指摘するように自律型殺傷兵器については国家間で共通の定義が存在していない。またAIの軍事活用は進んできているが、自律型殺傷兵器と称される兵器が実戦で活用されていないことから、英国政府が述べているように定義は人それぞれで主張する人によって様々である。AIの技術開発は進んでおり、軍事のあらゆる分野でAIが活用されるようになってきており、AIを活用しないで攻撃と防衛、さらにロジスティックや情報伝達などあらゆる軍事活動を遂行することは不可能に近くなってきている。自律型殺傷兵器の定義はますます難しくなっていくだろう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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