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オーストラリア「アンネ・フランク」の名前のキャンドル販売、ネット炎上で商品撤去

佐藤仁学術研究員・著述家
キャンドル「SHORT STORY ANNE」(Short Story)

「アンネ・フランクを金儲けに使うな」と大炎上

 オーストラリアのメルボルンにあるお土産店が販売していた「SHORT STORY ANNE(ショートストーリー アンネ)」というキャンドル(ろうそく)だが、このキャンドルがアンネ・フランクに由来するということで、ネットで大炎上していた。そして、ついにメルボルンのお土産店はキャンドルの販売を停止した。

 第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。アンネ・フランクはユダヤ人だったために、ナチスからの迫害を逃れてオランダのアムステルダムの隠れ家で約2年間、身を潜めて生活していたが、密告されて1945年にベルゲン・ベルゼン強制収容所で病気で死亡した。アンネが隠れ家生活で思いを綴った日記を戦後、ホロコーストから生き延びた父オットー・フランクが「アンネの日記」として出版し、現在でも世界中で多くの人に読まれている。アンネ・フランクはホロコーストを象徴するような人物で、欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われることが多く、小学生の必読書にもなっている。

 このキャンドルは「60時間消えることがなくホロコーストの犠牲者を追悼する」という意図もあったと販売店は説明している。だがネット上では「アンネ・フランクやホロコーストの犠牲者で金儲けをするな」「ホロコーストの犠牲者やアンネ・フランクに失礼である」「キャンドル(ろうそく)で燃えるのが、ユダヤ人が殺害された後に焼却されたことを思い出す」と大炎上していた。店舗側は「決してホロコーストの犠牲者を矮小化するような意図は一切なかった」と説明していた。

 欧米や中東諸国では現在でも反ユダヤ主義が根強く、ユダヤ人はSNS上でもヘイトスピ―チや民族憎悪の対象になりやすく、このようなホロコーストに関する商品に対しては非常にセンシティブである。オーストラリアの反ユダヤ主義と戦うためのユダヤ団体の名誉毀損防止委員会(Anti-Defamation Commission)の会長のドヴィール・アブラモヴィッチ氏もこのキャンドル販売に対して抗議を行い、商品撤去を決定した。販売店では「私たちは決してホロコーストの犠牲者やアンネ・フランクを金儲けに使おうという意図はありませんでした。歴史的に有名なアンネ・フランクやホロコースト犠牲者に対しては敬意を示しています」と説明していた。名誉毀損防止委員会のアブラモヴィッチ氏は「私たちは多くのユダヤ人やそれ以外の方から不満やクレームをいただきました。彼らの気持ちを汲み取って、迅速な商品の撤去をしてくれました」と語っていた。

毎回炎上するアンネ・フランクやホロコースト商品

 アンネ・フランクに関する商品はこれが初めてではない。アンネ・フランクやホロコーストやナチスドイツに関するファッションや商品は販売されると必ず炎上する。中にはユダヤ人が収容所で着ていた囚人服に似ていたり、ユダヤ人が差別されるために着用を義務付けられた黄色のダビデの星をつけた服など露骨なファッションもある。そのような商品は「ホロコーストの犠牲者に対する敬意がない」「生存者や家族が見たら、どのような思いをするのか考えよう」と毎回炎上する。また囚人服やダビデの星など露骨な反ユダヤ的なファッションについては世界中のユダヤ団体やホロコースト博物館、著名人らも反対や商品の撤収をSNSで呼びかけることから、いっそう話題になる。

 だが、それでも懲りずにこのようなアンネ・フランクを名付けた商品が登場する。毎回「ホロコースト関連のファッションを販売する」→「ネットで炎上し、拡散される」→「商品を撤収したり、謝罪する」の繰り返しで、もう欧米では過去に何回もあった。一方で、アンネ・フランクやホロコーストをテーマにした商品やファッションは、必ず炎上するので、それによって拡散し、話題になるので知名度を高めたり、サイト内の他の商品を見てもらおうとマーケティング目的で行われるケースもある。

アンネ・フランク(アンネフランク財団提供)
アンネ・フランク(アンネフランク財団提供)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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