ホロコースト生存者2人が音楽バンドを組んで悲劇の地ポーランドを旅する映画:進む記憶のデジタル化

(Courtesy Samuel Goldwyn Films)

 第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。戦後70年以上が経ち、当時の生存者たちも高齢化が進んでいき、ホロコースト当時のことを知っている人も少なくなってきており、近い将来にはゼロになる。そのため現在、欧米やイスラエルでは「ホロコーストの記憶のデジタル化」が進められており、当時の映像や写真、ユダヤ人らの体験記のインタビュー動画をネットで公開したり、ホログラムによる生存者とのリアルタイムの会話などデジタル化された生存者の記憶がホロコースト教育などにも積極的に活用されている。

 ホロコースト生存者を題材にした映画も欧米では毎年多く製作されている。映画も「ホロコーストの記憶のデジタル化」による記憶の継承の1つの重要な手段だ。ホロコースト生存者が主人公のノンフィクションで俳優など役者が演じる「シンドラーのリスト」のようなホロコーストを題材にした映画も多いが、ホロコースト生存者自身が出演する映画もある。2020年初頭からアマゾンプライム(日本では配信していない)やiTunesなどで公開している「Saul and Ruby’s Holocaust Survivor Band」もその1つだ。この映画はサウル・ドリエル氏とルビー・ソスノウィッチ氏というホロコースト生存者で現在はアメリカに住んでいる2人がバンドを組んでクレズマーという東欧ユダヤ(イディッシュ)の音楽を演奏しながら旅をするというドキュメンタリーで、ホロコースト時代に差別迫害されたポーランドを訪問している様子を描いている。しかも従来のように映画館で公開しているのではなく、アマゾンプライムやiTunesなどでの配信なら世界中の誰もがスマホから簡単にアクセスできるため、新型コロナウィルス感染拡大でロックダウンしている現在でも簡単に視聴できるし、映画館で公開するよりも様々な費用も抑えられる。またホロコースト映画は映画館で上映すると高齢者の観客が多いが、ネットでの配信では若い人にもリーチしやすい。

 製作者のトッド・レディング氏(祖父がポーランド出身でアメリカに移住)は「この作品はホロコースト生存者の最後の旅を描いています。そして2人の旅行はホロコーストでユダヤ人が一番たくさん殺された悲劇の地ポーランドでクライマックスを迎えます。2人ともこの映画が大好きです。旅行しながら撮影する時も彼らの高齢での体調と家族の健康を一番心配しました。ポーランドでも反ユダヤ主義的な攻撃や反感を買うことはお蔭さまでありませんでした。野外でのコンサートにはユダヤ人以外の方もたくさん来てくれました」と語っている。欧米ではいまだに反ユダヤ主義が根強く、ホロコーストから70年以上が経過した現在でもユダヤ人を嫌いという人が多い。第二次世界大戦が終了して強制収容所が解放されてからポーランドで自分が住んでいた町に戻ったユダヤ人が地元のポーランド人から迫害されて殺害された事例も多かった。現在、欧米の大学やイスラエルのヤド・バシェムでは「ホロコースト教育」や「ホロコースト・スタディーズ」の講義を提供しており、その中に「反ユダヤ主義(Antisemitism)」に関するクラスもあり、筆者も受講したことがあるが、古代から中世、近代から現代までの世界中での反ユダヤ主義の長い歴史があるため授業時間も文献も多く非常に難しかった。

 この作品はホロコースト生存者の2人が主人公で、思い出の地を旅する物語だが、トッド・レディング氏は「これはただのホロコースト映画ではないです。2人の男性が人生の終わりに自分たちを再発見する旅の物語です。彼らがたまたまホロコースト生存者だったということです。まずは音楽の旅物語(musical journey)と思って見てください」とコメントしている。また「それでも特に若い人には、この映画を見て、例えばサウル氏が死体を運ばされていたことや、目の前で祖母を殺害された時に感じたことなどホロコーストで起きたことを感じて欲しいです。生存者の体験と言葉から得られるインパクトは想像以上に大きいと思います」とも語っている。

▼Saul & Ruby's Holocaust Survivor Band(オフィシャルトレーラー)

▼2人のバンド活動を紹介するアメリカのメディアPBSでのニュース