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ドイツのコロナ反対デモ、自らをナチスに立ち向かったアンネやゾフィーに例えて炎上:外相も非難ツイート

佐藤仁学術研究員・著述家
ドイツでのコロナ政策に反対するデモ(写真:ロイター/アフロ)

ドイツ国内だけでなく周辺諸国のSNSも炎上

 新型コロナウィルス感染拡大防止のために欧米ではロックダウンが行われており、自由な外出ができずに不自由な暮らしを強いられている人が多い。そしてそのようなロックダウンによる外出の禁止や制限で自由を奪われている現在の状況を第二次大戦時のナチスドイツに迫害、差別されていたユダヤ人の状況、いわゆるホロコーストに例えられることが多い。当時、ゲットーに閉じ込められたユダヤ人やアンネ・フランクのように隠れ家で息をひそめながら隠れていたユダヤ人に例えられやすい。

 欧米ではホロコーストに例えると、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なるとネットが炎上している。そして高齢のホロコースト生存者らも当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルスのロックダウンの状況は異なると訴えている。だが、それでも欧米では「ロックダウンで外出が制限され、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」というイメージを持つ人が多い。そのためロックダウンの生活を「まるでアンネ・フランクのようだ」と表現したり、マスク着用に反対する人たちはマスク着用を義務付ける政府や自治体に対して「ホロコースト時にユダヤ人が着用させられたダビデの星のようだ」と抗議したりしている。ダビデの星とは差別・迫害の対象であるユダヤ人であることが一目で見てわかるために衣服に着用させられた黄色い星で、その星をつけているユダヤ人はスーパーでの買い物もできなかったし、公共施設にも入れなかった。さらに殴られたり蹴られたりしても警察も助けてくれなかった。

 ドイツでは約600万人以上の欧州に住むユダヤ人を殺害してしまったホロコーストへの罪の意識は大きく、今でもホロコースト教育が行われており、ヒトラーやナチスを礼賛したり、ホロコーストを矮小化したりすることは禁じられている。だが、そのドイツでも新型コロナウィルス感染拡大防止のためのロックダウンをホロコースト時代のユダヤ人に例えることが多くなり、SNSは炎上している。特にドイツ人だけでなく、ナチスドイツによって支配された周囲の欧州諸国やイスラエルやアメリカのユダヤ人らも警戒を示している。

「静かな誕生日はまるでアンネ・フランク」「コロナと闘う私はゾフィー・ショル」で炎上

 2020年11月にはカールスルーエで行われたマスク着用に反対する「アンチ・マスク」のデモで11歳の少女が「私の誕生日は静かに息をひそめて過ごさなければいけなかった。まるでアンネ・フランクのようだった」と掲げてSNSは炎上した。地元警察も「アンネ・フランクに例えるとはあまりにも不適切で非常によろしくない無神経なことだ」と発言していた。オランダのアムステルダムでアンネ・フランクが1942年から約2年間にわたって、ナチスドイツからの迫害から逃れるために、隠れ家に潜んで生活して、一切外出ができなかったこと、いつ殺害されるかわからない恐怖が、現在の新型コロナウィルス感染拡大防止のための不自由な生活と比較されることが多い。

 また2020年11月20日にハノーバーで行われた新型コロナウィルスによるロックダウンに反対するデモでは、若い女性が演壇に立って「このような新型コロナウィルス感染拡大で闘っている私はまるでゾフィー・ショルのようだ」と発言して、こちらもドイツだけでなく諸外国でもSNSで炎上していた。フランスメディアが撮影した映像も残っているが、女性がスピーチで「私はまるでゾフィー・ショルのようだ」と発言したら、男性警備員が「ホロコーストを矮小化するな!私はこんな子のために警備をしているのではない」と警備員のオレンジのベストを脱いでスピーチしている女性の前で抗議をして連れ出されていく姿、その後女性が泣きだすシーンも映っている。ゾフィー・ショルとはナチスに反対して地下組織運動を繰り広げていた女子大学生で、最後はナチスに逮捕され反逆罪で1943年にギロチンで処刑された反ナチスの英雄のシンボル的な存在だ。

外務大臣も「ロックダウンへの抗議はナチスに抵抗して闘った人々とは違います」

 ドイツ国内では新型コロナウィルス感染拡大に伴うロックダウンや失業などで抗議が相次いでいる。そしてこのようにドイツ国内でも新型コロナウィルスによるロックダウンがホロコーストに例えられて、国内外のSNSが炎上している状況に、ついにドイツの外務大臣のハイコ・マース氏も自身のツイッターで、「現在の自分達の闘う姿をゾフィー・ショルやアンネ・フランクに例えれば、当時ナチスに立ち向かった勇気を踏みにじることになります。そしてホロコーストの悲惨な歴史を矮小化することにつながります。新型コロナウィルス対策のロックダウンなどへの抗議は、ナチスに抵抗して闘った人々とは何も関係ない。一切何もありません!」と綴って呼びかけた。

▼ドイツの外務大臣ハイコ・マース氏のツイッターでの呼びかけ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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