「新型コロナによるロックダウンとホロコースト時代のユダヤ人の生活は違う」生存者らが訴え

(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナウィルスによるロックダウンと比較されるホロコースト時代のユダヤ人

 新型コロナウィルス感染拡大防止のために、日本だけでなく世界中の多くの国で外出自粛や外出の制限や禁止の措置が講じられてきている。そして、欧米では外出の禁止や制限で自由を奪われている現在の状況を第2次大戦時のナチスドイツに迫害、差別されていたユダヤ人の状況、いわゆるホロコーストに例えられることが多い。第2次大戦時にナチスドイツによって、約600万人のユダヤ人が殺害された。殺害に至るまでに、日常生活においてもユダヤ人は黄色い星を着用させられたり、学校や職場から追放されたり、公園や映画館の使用を禁止されたり、ゲットーに閉じ込められて生活させられたり、夜の外出は禁止させられたりと差別・迫害されていた。そしてユダヤ人は「移住」という名目で強制労働のために収容所に移送され、強制労働に適さない老人や子供はガス室で殺害されていった。

 特にオランダのアムステルダムでアンネ・フランクが1942年から約2年間にわたって、ナチスドイツからの迫害から逃れるために、隠れ家に潜んで生活して、一切外出ができなかったこと、いつ殺害されるかわからない恐怖が、現在の新型コロナウィルス感染拡大防止のための不自由な生活と比較されることが多い。ホロコースト時代の象徴的な存在である「アンネの日記」は世界中で長年にわたって読まれてきたため、多くの人がその窮屈で死と隣合わせの恐怖の生活を想像できる。

 欧米ではホロコースト教育が多くの学校で導入されている。筆者も英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとイスラエルのヤドバシェムが提供している「ホロコースト教育」に関するクラスを受講したことがあるが、ホロコースト教育においても、ナチス占領下でのユダヤ人が狭いゲットーに閉じ込められて、自由に外出できなくなり、仕事を奪われていき、またナチスから身を潜めるためにアンネ・フランクのように隠れ家などに隠れたり、身分を偽ったりしながら生活をしていた様子や、次第に殺害されていくところは重点的に教えられている。そのため欧米でホロコースト教育を受けた人たちは、新型コロナウィルスの拡散防止のためのロックダウンで家に閉じ込められて、自由に外出できなくなることや仕事が奪われることがホロコーストを想起させてしまうのかもしれない。ロックダウンでは外出の自由を奪われて、家の中で閉じ込めらっぱなしで、さらに仕事も奪われる人もいるという今までの人生では経験することがなかったような不自由で、不安で、息苦しいことばかりだ。新型コロナウィルス拡散防止のためのロックダウンは、まるでホロコースト時代のユダヤ人の生活のようだという感覚に陥ってしまうのかもしれない。

Zoomを活用して自宅から世界中に訴えるホロコースト生存者たち

 そのようなロックダウンが続く中でホロコースト生存者らの多くが、当時のホロコーストと新型コロナウィルスのロックダウンは状況が全く違うとZoomなどを活用して世界中に訴えている。戦後70年以上が経過しており、ホロコースト生存者たちも高齢化が進んでいき、当時のことを知っている人も少なくなってきており、近い将来にはゼロになる。そこで現在、欧米やイスラエルでは「ホロコーストの記憶のデジタル化」が進められており、当時の映像や写真、ユダヤ人らの体験記のインタビュー動画をネットで公開したり、ホログラムによる生存者とのリアルタイムの会話などデジタル化された生存者の記憶がホロコースト教育などにも積極的に活用されている。今までは生存者らがホロコースト博物館などで学生らを前に当時の経験を語っていたが、新型コロナウィルス感染拡大のために生存者の話もZoomなどオンラインで視聴することが多くなった。高齢のホロコースト生存者にとっても、博物館や学校まで足を運んでの講演よりも自宅からパソコンで語る方が体力的にも良いということで、生存者らもオンラインで自宅から積極的に当時の経験を語っている。またZoomでの講演は今までのように博物館や学校に足を運ばないと聞けなかった生存者の話が世界中から視聴できる。

 新型コロナウィルスによるロックダウンはホロコーストと比較するべきではない、ホロコースト時代のユダヤ人の生活の方が悲惨で恐怖に直面していて大変だったという経験や記憶を多くのホロコースト生存者らがZoomなどで世界中に伝えている。アメリカのニュージャージー州にあるラリタン・バレー・コミュニティカレッジでは2020年4月17日から「苦難の時代における回復する力:希望につながる証言(Resilience During Challenging Times: Testimonies That Provide Hope)」というタイトルのクラスを開講し、ホロコースト時代の経験に比べればロックダウンによる不自由は乗り切れると訴えていた。そして「ルールを守って、家にいなさい(Stay Home)」と強調していた。

 92歳になるリトアニア出身でカナダ在住のホロコースト生存者のエリー・ゴッツ氏もZoomを積極的に活用して、当時のホロコーストと新型コロナウィルスによるロックダウンとは異なることを伝えている。現在の新型コロナウィルスによるロックダウンのようにルールを守って家にいればよい状況とは異なり、ホロコースト時代のゲットーには食料品もなく、いつ密告されたり、見つかって殺されてしまう恐怖と常に直面していた当時の惨状を伝えていた。ゴッツ氏は「現在はロックダウンで外出が不自由な生活を強いられていると思います。私は以前に4年間もリトアニアのゲットーに閉じ込められていました。16歳まで地下室の倉庫の中で家族と一緒に身を潜めていました。ゲットーでは多くのユダヤ人がナチスによって殺害されました。家族が苦しむ姿を見るよりも死んでしまいたいと思っていました。ドイツのダッハウ強制収容所に移送されて私と父だけが生き残ることができました」と当時の様子を語っていた。

 ゴッツ氏はZoomでの記憶の伝承について「以前の時よりも4倍の50のクラスにZoomで講演を行うことができるようになりました。3500人以上の若い学生にホロコーストについて伝えています。私の目的は子供たちに民族憎悪をしないことや人種差別をしないこと、偏見をなくすことを伝えることです」と語っていた。カナダのユダヤ人コミュニティのプログラムディレクターのロビンソン氏は「Zoomなどのオンライン授業によって、場所や教室の規模に縛られることがなくなりました。すでに1200人から1400人が受講しています」と語っていた。