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パキスタン首相「Facebookは反ユダヤだけでなく反ムスリムの投稿も禁止すべき」CEOに直訴

佐藤仁学術研究員・著述家
パキスタンのイムラン・カーン首相(写真:ロイター/アフロ)

 Facebookは2020年10月にホロコースト否定に関する投稿を一切禁止し、発覚したらすぐに削除することを明らかにした。第二次世界大戦時にナチス・ドイツが約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。だが現在でも欧米やアラブ諸国では反ユダヤ主義が根強く「ホロコーストはなかった」「ユダヤ人はそんなに殺されていない」といったホロコースト否定論者が多く、そのようなホロコースト否定や反ユダヤ主義に関する投稿はネットやSNSにも多く、あっという間に拡散されている。特に若い人たちはSNSでのホロコースト否定の情報を鵜呑みにしてしまう傾向が強い。

 戦後70年以上が経ち、ホロコーストの生存者らも高齢化が進んできているが、世界中のホロコースト生存者が2020年7月に、FacebookのザッカーバーグCEOに対して、ホロコースト否定論に関する投稿を削除するように呼びかけ、キャンペーンを始めた。「#NoDenyingIt」のハッシュタグをつけて、呼びかけていた。ホロコースト生存者は高齢化が進み、ホロコーストを体験した人たちは年々減少している。「ホロコーストは当時、実際にあった」と証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"の投稿や情報が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実にされてしまいかねない。いわゆる歴史修正主義で、ますます反ユダヤ主義が世界規模で拡散されることが危惧されていた。そのため高齢のホロコースト生存者らは慣れないSNSを活用して世界中に訴えていた。世界中のユダヤ団体やアウシュビッツ博物館もツイッターで呼びかけていた。ザッカーバーグ自身もユダヤ人で「ホロコースト否定論は非常に攻撃的であり、攻撃的で悪い発言と戦うのは、良い発言だ」と語っていた。このようにFacebookではホロコースト生存者らの呼びかけに応じて、ホロコースト否定論や反ユダヤ主義の投稿を禁止した。

フランス大統領の対応にも言及

 Facebookでのホロコースト否定や反ユダヤ主義の投稿禁止の動きを見て、パキスタンのイムラン・カーン首相はザッカーバーグCEOに反ムスリムの投稿も禁止し、発覚したらすぐに削除するように要求した。カーン首相は「SNSの世界規模での普及によって、ムスリムを冒涜するコンテンツも増えている。Facebookではホロコースト否定や反ユダヤ主義の投稿を禁止したように、反ムスリムの投稿を禁止すべきだ」と訴えた。反ムスリムは「Islamophobia」と呼ばれておりイスラム教やムスリムに対する憎悪、ヘイトスピーチ、宗教的偏見であり、欧米では反ユダヤ主義と同じように根深い。アメリカでは「9・11」の時が最高潮だったが、現在でもイラクやアフガニスタンなどの情勢によって反ムスリムは拡散されやすい。

 また最近ではフランスで学校の先生が表現の自由の授業の中で、学生に預言者もハメットの風刺画のイラストを見せたことで殺害されるという事件があった。これに対してマクロン大統領が表現の自由を守ると発言し、イスラム過激派の取り締まり強化を宣言した。そしてトルコなど中東やアジアのイスラム圏諸国ではフランス製品の不買運動や抗議デモが頻発しており、そのような状況に対してSNSでは反ムスリムの投稿も相次いでいる。パキスタンのカーン首相は今回のフランスでの事件も踏まえてザッカーバーグ氏への要求の中で「マクロン大統領が白人至上主義者やナチスのイデオロギーを尊重するテロリストではなく、ムスリムを標的にして反ムスリムを増長するような発言と選択をしたのは非常に嘆かわしいことだ」とも主張していた。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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