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エスパー米国防長官、戦場におけるAIについて語る「AIを真っ先に取り入れた国が優位に立てる」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 エスパー米国防長官は、2020年9月に米国国防総省傘下のAI(人工知能)研究機関のジョイントAIセンターでのバーチャルシンポジウムに登壇して、戦争におけるAIの役割について語っていた。エスパー国防長官は「AIは戦場のスタイルを大きく変える可能性を秘めている。そしてAIを真っ先に戦場に取り入れた国が他の国よりも優位に立つことができる」と語っていた。

 また「歴史的にも新しい技術開発による兵器が登場してきており、それらを戦場に取り入れてきたことは歴史が証明している。例えばアメリカはステルス兵器、GPSを搭載した衛星を活用してイラクの戦場やソ連の兵器開発競争と戦ってきた。次世代の弾丸と違って、AIは戦場の最前線だけでなく、バックオフィスでも貢献することができる。AIには軍事、戦場でのあらゆる面でトランスフォーメーション(変革)を起こす可能性を持っている。そのためにもアメリカとしてはAIへの投資を惜しんではならない。AIは国際社会のルールや秩序を変える可能性もある」と語った。

ロシア、中国のAI開発と使用に対する懸念表明

 そして、昨今のロシアによる無人兵器、サイバー攻撃、ウクライナへの侵入に活用した洗練された兵器について触れ、エスパー国防長官は「ロシアのプーチン大統領は"AIを制した国が世界を制する"と語っており、ロシアはAI技術開発に多額の投資をしている。ロシアはそれによって多国への影響力拡大を図ろうとしている。それ以来ロシア政府はAIを搭載したシステムや戦闘機、核兵器を搭載した潜水艦、コマンドアンドコントロールを開発してきている。それらは将来の戦場に適用されるはずだ」とコメント。

 またアメリカと軍拡競争で激しく対立している中国は、10年以内の世界でのAI開発のリーダーになることを標榜している。人民解放軍はAIを搭載した低価格な自律型兵器の開発を行っており、アメリカとの軍拡競争においては脅威となる国である。その中国についてエスパー国防長官は「現在、中国の軍事メーカーは自律型攻撃ドローンを販売している。それらは標的を殺傷する攻撃力を持っている。中国政府は次世代の無人型ステルスUAVの開発で優位に立っており、それらを海外の諸国に輸出しようとしている。中国政府は21世紀の監視型国家を構築しており、中国人民を完全にコントロールしようとしている。あらゆるところに設置されたカメラやインターネットの検索や買い物履歴などあらゆる情報やデータが吸い取られており、それらのデータを元に誰がどこに入ったかなどの情報をリアルタイムに把握することもできる。AIによる監視システムも発展しているデジタル警察国家だ。このようなAI技術開発が中国で発展して海外に輸出されるようになると、デジタル権威主義が世界中に拡散してしまう」と懸念を表明した。

「アメリカの価値観は変わらない」

 AIの発展によって人間の判断を介さないでAIが判断して標的を攻撃してくる自律型殺傷兵器が開発されようとしている。人間の判断を介さないで人を殺すことが非倫理的であるとNGOが自律型殺傷兵器の開発と使用には反対している。アメリカ政府としては自律型殺傷兵器の開発には反対していない。このような背景を踏まえて、エスパー国防長官は「我々アメリカはAIを他のハイテク製品の開発と同じように最高の倫理性を持って開発しようとしている。技術開発は常に進化してきているが、我々アメリカがもっているコアな価値観が変わることはない。国防総省では、AI技術の開発における価値観、透明性、信頼性、統治性を重視している。この原則はアメリカ国民と世界中の市民にとって明確だ。アメリカは新たなAI技術開発においても責任をもって世界をリードしていき、安全保障体制においても同盟国と連携を強化していく」と強調していた。だがエスパー国防長官は自律型殺傷兵器の開発を行わないとは明言しなかった。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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