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米国防総省「AI技術力でアメリカはまだ中国に優位。問題はAIを軍事分野でどう活用するか」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 軍事分野でのAI(人工知能)の活用が世界中で進んでいる。AI開発競争においても米中での対立と競争が続いている。米国防総省のAI研究機関である「ジョイントAIセンター(JAIC)」のディレクターのナンド・ムルチャンダニ氏は「アメリカはまだ中国よりもAI開発において優位である」と語っていた。「AI開発においてはアメリカは中国よりも優位で進んでいると考える。米国企業のAI分野での技術開発力があるからだ。だが問題は、そのAIをどのように軍事や国防分野に活用していくかである」ともコメント。

 またジョイントAIセンターのバイス・チェアマンのジョン・E・ハイテン将軍は「5年前には、2020年には中国がAI分野においてアメリカを抜かすと言われていましたが、現在ではアメリカ中の全ての産業においてAI活用が進んでおり、アメリカにとっては大きなアドバンテージだ」と語っていた。ムルチャンダニ氏も「これからは国防総省はあらゆるAI技術を活用していくべきだ」と同意していた。国防総省のCIOを務めるダナ・ディジー氏は「ジョイントAIセンターでは現在120社以上の米国企業とAI技術の開発を進めている」と明らかにしていた。

 現在、120社以上の企業とAI技術の開発を進めているとのことだが、AI技術開発に強いアメリカを代表する企業のGoogleは2018年に国防総省のAIプロジェクト「Project Maven」の契約を更新しないことを明らかにした。AI技術が戦争に使われることに対して同社の3000人以上の従業員が反対の署名をしていた。そしてGoogleは2018年6月にAI技術開発の倫理的なガイドラインを策定して、戦争など人を殺傷する目的でAI技術を活用しないことを発表していた。

 同センターのムルチャンダニ氏は「中国はAI技術の開発に相当な投資をしている。さらに圧倒的に多い中国人から様々な情報を収集して動画、画像の認識力を強化している。国防総省としては、軍事と国防でのAI技術力をさらに強化していく必要がある」と語っていた。ジョイントAIセンターのブラッド・ボイド氏は「アメリカがAI技術力を強化していくためにも、データ収集を強化していくべきだ。実際アメリカ軍の問題は組織化されていない、アーカイブ化されていない、いわゆる"使えない"データがあまりにも膨大にあることだ。戦争で使えるAI技術にするためには、それらのデータをこれからもっと磨きをかけていかないといけない」と付け加えていた。また同センターのジェーン・ピネリス氏は「中国あらゆるデータを効率的に収集して、多くのAI技術者たちがデータを確認しながらラベリングしている。我々アメリカも学術機関や産業界と協力してAI技術力を強化していく必要がある」と語っていた。

 軍事分野でのAI活用は進められている。だがAIを搭載した兵器が判断して攻撃を行い、人間の判断を介さない自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)が非倫理的、非道徳的であるという理由でNGOが開発に反対している。GoogleもAIの倫理ガイドラインの中で戦争目的や国際法や人権に反する目的でのAI技術利用は行わないことを明言している。現在、世界で30か国がLAWS開発に反対しているが、アメリカ政府はLAWSの開発に反対していない。中国はLAWSを使用することには反対を表明しているが、開発には反対していない。また現時点ではLAWSは国際人道法で使用や開発の禁止や制限がされているわけでもない。実際にLAWSの開発や使用をしても罰則もない。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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