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習近平国家主席「中国人民解放軍は小型ドローン兵器の開発を強化すべき」空軍航空大学にて

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「強い軍隊なくして、強い中国はない」

 中国の習近平国家主席は2020年7月に吉林省にある中国人民解放軍空軍航空大学を訪問してスピーチを行った。習主席は「中国人民解放軍は攻撃を行うための小型無人ドローン兵器の開発と軍事作戦を強化して、実戦をイメージして戦争に勝つための訓練と人材育成に注力すべきだ」と主張。さらに「強い軍隊なくして、強い中国はない。どのような敵に対しても決して恐れてはならない」と鼓舞した。

 「強国路線」を掲げる中国人民解放軍は対ロシアやアジア、インドに備えて陸軍の強化、南シナ海においての海軍の強化を図ってきており、空軍の近代化と強化も必須である。またドローンは兵器として攻撃用だけでなく、偵察や諜報活動にも活用することができる。特に小型ドローン兵器は大型ドローンよりも低価格で大量生産が可能である。今回、習主席が強調したように小型ドローン兵器の活用は中国だけでなく、世界規模で導入が進められている。トルコでは「神風ドローン(Kamikaze Drone)」と呼ばれている敵や標的に突っ込んでいき爆撃するドローンも開発されている。

 中国では現在、ドローン「Dark Sword」の第6世代プラットフォームとしてAI(人工知能)を搭載した攻撃型ドローンの開発を行っていると報じられている。中国はAI開発と軍事分野でのAI活用にも注力している。「Dark Sword」は「アメリカへの悪夢(nightmare for the US)」とも呼ばれており、アメリカへの軍事的対抗意識をむき出しにしている。軍事ドローンの世界規模での普及は進んでおり、2026年までには210億ドル(約2.2兆円)までの規模に成長すると予測されている。

 AIを搭載した兵器の開発も世界中で進んでいる。現在のドローンは遠隔地で人間の兵士が操縦して標的を見つけて攻撃を行っているが、AI搭載した兵器では、人間の判断を介さないでAI自身が標的や敵を判断して攻撃を行うキラーロボットと称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapon Systems:LAWS)の開発と登場が懸念されている。このような人間の判断を介さないで敵を攻撃して殺害することが非倫理的であるとして、NGOなどがLAWSの開発には反対している。世界中でLAWSの禁止を主張しているのは、アルジェリア、アルゼンチン、オーストリア、ボリビア、ブラジル、チリ、中国(使用のみ)、コロンビア、コスタリカ、キューバ、ジブチ、エクアドル、エルサルバドル、エジプト、ガーナ、グアテマラ、バチカン市国、イラク、ヨルダン、メキシコ、モロッコ、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、パナマ、ペルー、パレスチナ、ウガンダ、ベネズエラ、ジンバブエの30か国で、中国はLAWSを使用することは禁止を求めているが、開発の禁止は訴えていない。アメリカやロシア、欧米の主要国、イスラエルや韓国、インドなど軍事分野でのAI活用が進んでいる国ではLAWSの開発も使用も禁止を主張していない。またこの30か国もLAWSの開発や使用の禁止を主張しているだけであって、法的拘束力や罰則などは一切ない。つまりLAWSを開発して所有していれば実際に戦争が勃発した際には使用される可能性は十分にある。

▼「Dark Sword」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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