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国連人権理事会、軍事ドローンの脅威を語る「人間の判断による攻撃も非倫理的」

佐藤仁学術研究員・著述家
アニエス・カラマール氏(写真:ロイター/アフロ)

 軍事での攻撃型ドローンの活用が普及してきており、軍事ドローンが世界の平和と安全保障にとって大きなリスクとなっている。軍事ドローンの製造と使用を行っている国々は「ドローンパワークラブ(drone power club)」を形成しているとも言われている。2020年7月に、国連の人権理事会の特別報告者のアニエス・カラマール氏は、軍事ドローンの普及について警鐘を鳴らした。「100ヶ国以上の軍隊で軍事ドローンは導入されており、そのうち3分の1以上が最大級かつ自律型殺傷兵器を所有していると考えられます」とコメント。

 さらに「自国の防衛を理由に軍事ドローンを導入している国は、テロリストに対して決して屈しないことをあげていますが、軍事ドローンの導入には厳密な禁止のラインがありません。多くの政府やテロリスト集団のような非国家組織が軍事ドローンを所有して、殺害目的のために使用するようになることは明らかに平和に反して、危険しかありません。軍事ドローンによる戦争が平和というノーマル化を維持するために必要なリスクになります。そのような軍事ドローンの利用が拡大すると、国際的な大火災(global conflagration)に発展します」と語り「数少ない影響力のある大国の関与が大きいことから、自衛のための軍事ドローンの活用については安全保障理事会での議論が必要です」と強調していた。

またカラマール氏は「今まで行われてきた戦争という文脈から外れて、テロリストといった潜在的な将来の脅威に対抗するために国家が緊急ではないが、軍事ドローンを所有するのに十分な必要性があることを正当化しようとする傾向が強く見られます」とコメント。そして2020年1月にイラクのバグダッド空港でイランのソレイマニ将軍の車両が米軍ドローンに攻撃され、将軍が殺害され、イランとイラクに犠牲者が出たことについて触れ「かつては軍事ドローンでの標的はテロリストなどの非国家組織に限定されていたが、イランという国家を代表する将軍が、アメリカ軍によって攻撃されて殺害された」と言及。

 AI(人工知能)の発展によって、AIを搭載した兵器が人間の判断を介さないで、AIの判断によって標的や敵を攻撃することが懸念されている。国連事務総長も「キラーロボット」とも呼ばれている、自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)の開発を反対している。そして現在の軍事ドローンによる攻撃は、人間による適切な判断によって攻撃が行われていると言われている。だが、カラマール氏は「人間の判断によって攻撃が行われる軍事ドローンによるメリットも、殺傷的な攻撃においては、神話であり、幻想です。人間の判断によって攻撃される軍事ドローンでも誰が殺害されるのかはわかりません」と語っていた。

 AIを搭載し、AIの判断によって攻撃をしかけてくる自律型殺傷兵器は現時点では実戦では利用されていない。自律型殺傷兵器の開発や使用に反対する団体や国は「人間の判断を介さない」で攻撃をしかけてくる兵器が非倫理的、非道徳的だと主張している。だが、人間の判断による軍事ドローンによる殺傷的な攻撃も、決して倫理的、道徳的だとは言えない。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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