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アウシュビッツ博物館、再開に向けて新たな完全自動の全身消毒ゲート導入 ポーランドの大学が開発

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 第2次大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らが殺害された、いわゆるホロコースト。ホロコーストの象徴的な存在が、110万人以上が殺害されたポーランドにあるアウシュビッツ絶滅収容所だ。先日アウシュビッツに収容されていたポーランド人収容者からの手紙がデジタルアーカイブとして公開されたり、いまだにホロコースト教育が欧米やイスラエルでは行われている。現在でもアウシュビッツ・ビルケナウ博物館として欧米やイスラエルの修学旅行生や観光客が多く訪れ、2019年には過去最高の230万人が訪問。内訳としてはポーランド人約40万人、イギリス人20万人、アメリカ人12万人、ドイツ人7万人。特に春や夏はいつも混雑しており、いわゆる密状態だ。だが、新型コロナウィルスの感染拡大防止のために、閉鎖していた。そして2020年7月1日から再開する。

アウシュビッツに新たに設置された消毒ゲート(アウシュビッツ・ビルケナウ博物館提供)
アウシュビッツに新たに設置された消毒ゲート(アウシュビッツ・ビルケナウ博物館提供)
アウシュビッツに新たに設置された消毒ゲート(アウシュビッツ・ビルケナウ博物館提供)
アウシュビッツに新たに設置された消毒ゲート(アウシュビッツ・ビルケナウ博物館提供)

 再開するアウシュビッツでは、新型コロナウィルス感染拡大防止のために、新たな消毒ゲートを入り口に設置する。消毒ゲートはポーランドのシレジア工科大学とポーランドのスタートアップ企業によって開発された。科学者たちによってデザイン、開発された消毒ゲートでは一人ずつ通ると全身が消毒され、新型コロナウィルスの感染拡大防止のために病院施設などでも導入されており、今回、アウシュビッツ・ビルケナウ博物館と共同で製作。消毒ゲートは無人で完全自動で、訪問客は一人ずつゲートを通るだけでセンサーが察知し消毒されるので、博物館の職員が訪問客との接触を極力回避することができる。アウシュビッツ・ビルケナウ博物館での採用が博物館での最初のこの消毒ゲートの導入となる。アウシュビッツ・ビルケナウ博物館の館長のCywinski氏は「新型コロナウィルスの感染拡大防止のための革新的な消毒ゲートは今後の観光地でのニーズにも応えていくでしょう。アウシュビッツが初めての導入になることが嬉しいです」と語っている。7月1日から再開されるが、入場人数の制限、見学時のソーシャルディスタンスの確保も要求されている。

完全自動なので博物館職員が訪問客と接する必要がない。洋服を着たまま通過できる。(アウシュビッツ・ビルケナウ博物館提供)
完全自動なので博物館職員が訪問客と接する必要がない。洋服を着たまま通過できる。(アウシュビッツ・ビルケナウ博物館提供)

 今回、アウシュビッツ・ビルケナウ博物館に新たに消毒ゲートが導入された。アウシュビッツ絶滅収容所の目的は「労働を通じた絶滅」だった。欧州中から移送されてきたユダヤ人らが、アウシュビッツ絶滅収容所に到着すると、まず「選別」が行われ、労働に適さない老人や子供は、そのまますぐに「シャワー室」という名前のガス室に「消毒をする」という理由で送られて殺されていった。働けると判断された者たちも「消毒をする」と言われ、裸にされて本物のシャワー室で水を浴びさせられ、ボロボロの囚人服と靴を渡されて、身体中の全ての毛を全て刈られて、囚人番号の入れ墨を入れられ人間性と尊厳の全てを奪われた。収容所ではガス室で殺されるという噂は移送される前からユダヤ人たちの間では知られていたため、働けると判断された者たちもシャワー室で水が出てくるまでは恐怖に怯えていた。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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