米国の新型コロナで仕事再開求めるデモで『ARBEIT MACHT FREI』アウシュビッツが嫌悪感
新型コロナウィルス感染拡大防止のためにアメリカのイリノイ州でも外出制限やロックダウンが2020年3月から続いており、多くの労働者が仕事を失っている。そのイリノイ州でロックダウンで仕事を失ってしまい生活に困っていることから5月にデモが行われた。そのデモの中で1人のアメリカ人女性が『ARBEIT MACHAT FREI, JB』と掲げたボードを持ってデモに参加していた。
▼『ARBEIT MACHAT FREI, JB』のボードを掲げていたイリノイ州でのデモ。
収容所のスローガン『ARBEIT MACHAT FREI』(労働は自由への道)
『ARBEIT MACHAT FREI』とはナチスドイツ時代にユダヤ人やロマ、政治犯を強制収容していた収容所のゲートに掲げられていたドイツ語のスローガンで「労働は自由への道」という意味。強制収容所で働けば、自由になれるというナチスドイツの幻想的なスローガンだった。ナチスドイツの収容所は刑罰を受ける者を収容すること、必要な労働力を供給すること、絶滅・殺害の3つの大きな目的があった。つまり「労働によるユダヤ民族の絶滅」が政策の主軸であり、実際にはどれだけ働いても自由にはなれなかった。無料で使えるユダヤ人らに強制労働を強いてドイツ軍の必需品や生活用品などを作らせていた。映画「シンドラーのリスト」などでもユダヤ人の労働シーンは登場している。また労働に不適格とされた子供や老人は収容所に到着直後に、ガス室で殺害されていった。衛生環境も栄養も不足しており、多くのユダヤ人が病気でも死んでいった。ホロコーストでは約600万人のユダヤ人やロマらが殺害され、アウシュビッツ絶滅収容所では110万人が殺害された。
余談だが『ARBEIT MACHAT FREI』のBの文字は上と下が反対になっているが、これはナチスに抵抗した囚人が逆にしたと言われている(実際にそのような意図があったのかどうかの真意は不明)。強制収容所内には、「労働は自由への道」だけでなく「正直は一生の宝」「雄弁は銀、沈黙は金」といったスローガンや、「おとなしく行動せよ」「バラック内では帽子を脱ぐこと」といった注意書きがあちこちに掲げられていた。
炎上しやすく拡散されやすいホロコースト
現在の新型コロナウィルス感染拡大防止のために仕事を失い生活が困窮しているため、仕事の再開を求める意図からイリノイ州のデモでは、『ARBEIT MACHAT FREI』(労働は自由への道)というワードを掲げていた参加していた。欧米やイスラエルでは学校でホロコースト教育が導入されているところが多いので『ARBEIT MACHAT FREI』の意味は欧米人なら多くの人が知っており訴求力も高い。また、このような欧米人にとってインパクトある用語を使えば拡散されやすいので、現在の困窮を訴えることと仕事を再開してほしいという要求が通じると考えたのかもしれない。ホロコーストやナチスについては今でも欧米では反ユダヤ思想が根強く、民族憎悪やヘイトと結びついているので、非常にセンシティブな問題で炎上の要因になりやすい。
実際にこのイリノイ州でのデモのボードがツイッターにアップされると、アウシュビッツ博物館が自身のツイッターで「このスローガンはナチスによって作られた幻想です。このスローガンは人間の尊厳を奪う代表的な言葉です。この言葉がまた使われてることが残念です」と訴えた。
ユダヤ系州知事"JB"への呼びかけも
また、今回のイリノイ州のデモで、『ARBEIT MACHAT FREI,JB』と掲げていたが、JBがジェイ・プリツカー(Jay Robert "J. B." Pritzker)イリノイ州知事への呼びかけであり、ジェイ・プリツカー氏自身がユダヤ系であることから、欧米のユダヤ人らもこのスローガンに対しては嫌悪感を示している。アメリカユダヤ委員代表のデビッド・ハリス氏も自身のツイッターで「この『ARBEIT MACHAT FREI』の3文字は野蛮なナチス、強制労働、ガス室を想起させるものです。JBがユダヤ系の州知事を示しています。恥ずべきことであり、ショックです、吐き気がします(Shameful. Shocking. Sickening)」と怒りを露わにしていた。
▼アウシュビッツ博物館もツイッターで「この言葉がまた使われてることが残念です」と訴えた。
▼アメリカユダヤ委員代表のデビッド・ハリス氏も怒りを露わにしている。