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ホロコースト記念日のオンライン追悼式にヒトラーの画像と反ユダヤ主義スローガン登場

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 ユダヤ教のヨム・ハショアという第2次大戦中にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコーストの犠牲者を追悼する記念日がある。2020年は4月20日から21日にかけてがヨム・ハショアだった。同日はイスラエルでは全土でサイレンが鳴り、約2分にわたって全国民が黙とうを捧げる。

 毎年、ユム・ハショアの日には、イスラエルのエルサレムにあるホロコースト記念館ヤド・バシェムに多くの生存者や関係者が集って、犠牲者を追悼するが、今年は新型コロナウィルス感染拡大防止のために、史上初となるオンラインでの追悼式が行われた。また一般の方々には、動画で犠牲者の名前を読みあげて、ハッシュタグをつけてSNSに拡散することも呼びかけていた。

 そして、2020年のユム・ハショアの前日にドイツのイスラエル大使館主催で、WEB会議のZOOMを用いてオンラインでの追悼式を行っていた。ホロコーストの生存者のツヴィ・ヘルシェル氏がZOOMを用いて、当時の記憶を語っていた際に、突然アドルフ・ヒトラーの写真が登場し、反ユダヤ主義のスローガンが叫ばれた。ZOOMでのオンライン追悼式イベントは一時中断され、再開された。中断後は侵入はされなかった。

 この事件を踏まえて、ドイツのイスラエル大使のジェレミー・イサチャロフ氏は「ホロコーストの記憶と犠牲者に対する冒とくであり、許されるべきことではありません。私は3年間、大使を務めていますが、多くのドイツ人はホロコーストの記憶を尊敬しています。このようにオンラインの画面にヒトラーが掲載されるのは不幸なことです」と語っていた。

 ZOOMでのオンラインでの追悼式のため、誰が犯人かは不明だ。従来のリアルな追悼式では警備も厳しいことから反ユダヤ主義やネオナチのデモなどは立ち入ることは難しいが、オンラインで侵入されてしまった。現在でも欧米やアラブ諸国では反ユダヤ主義は根強く、ネオナチの問題は存在しているため、ドイツ人ではないかもしれない。特に、以前のようにドイツなど欧州の地元の人が反ユダヤ主義やネオナチの思想を持っているというよりも、中東やアフリカからのムスリム系の移民が増加しており、彼らの中には反ユダヤ主義の思想を持っている人もおり、地元の人々との緊張関係は続いている。特にSNSでの反ユダヤ主義の書きこみは散見されるが、誰が書いて拡散しているのか不明なことが多い。

▼ドイツのイスラエル大使のジェレミー・イサチャロフ氏は自身のツイッターでも追悼式へのヒトラーの画像挿入のことを伝えている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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