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ドイツ、ナチス時代の犠牲者の情報を2600万まで増強:一人でも多くの身元判明に向けて

佐藤仁学術研究員・著述家
戦時中にフランスで実際にユダヤ人に着けさせられていた黄色のダビデの星(写真:ロイター/アフロ)

  第2次大戦のナチスドイツの迫害で殺害されたユダヤ人は600万人以上といわれ、現在でも行方と消息が不明な人も多い。デジタルアーカイブを提供している企業Ancestryはドイツのアーロルゼンにあるナチスの被害者のアーカイブを保管しているアーロルゼンアーカイブセンターと協力して、ホロコーストの犠牲者のアーカイブを公開しており、全世界からオンラインで誰もが無料で検索ができる。同センターは、1944年に当時の連合国軍によってInternational Tracing Service(ITS)として設立され、ナチスの犠牲になった1750万人の情報を収集しており、2019年から名前を変えた。アーカイブやドキュメント、遺品などを元に毎年2万人以上のナチスによる犠牲者の身元が判明している。また同センターのドキュメントは無料でオンラインで検索できるため、世界中の学術研究者にとっても有益な情報源になっている。

 アーロルゼンアーカイブセンターではイスラエルのホロコースト国立記念館ヤド・バシェムと協力して、オンラインデータベースに格納されているホロコーストで犠牲になった人々のドキュメントが2600万に達したことを明らかにした。同センターでは2600万のドキュメントを収集することを1つのマイルストーンにしていた。

 同センターではナチスドイツの占領下にあった欧州の地域で迫害されたユダヤ人だけでなく、ロマや政治犯などの2100万人分まで情報も拡大し、彼らの情報をデジタルアーカイブ化してオンラインで世界中から検索できるようになっている。当時の写真などもデジタルで保管して、ホロコースト以降に離散してしまった家族や親せき、友人らの情報をオンラインで世界中から探すことができる。

 第2次大戦が終結して70年以上が経ったが、ドイツが侵攻した国々で迫害されたユダヤ人の多くは、自分がいた国に戻った人だけでなく、混乱している時期にアメリカやイスラエルに移住した。また冷戦下の東ヨーロッパ諸国やソ連では情報を公開していなかったため、ホロコーストで迫害された人々の情報を探すことは非常に困難だった。

 ホロコースト経験者の高齢化が進んでいるが、現在でも彼らの子供世代も含めて、当時の家族や親せき、友人を探している人が多い。ホロコーストの犠牲者らの追跡は戦後、ずっと続けられており、イスラエルや欧米ではアーカイブ化して保管している機関も多いが、実際には家族全員やユダヤ人集落にいた全員が殺害されてしまったケースもとても多い。また当時の犠牲者や被害者の情報を検索して、行方不明者の身元を確認して認識できる世代の高齢化が進んでおり、彼らもデータベースを使いこなすことはできないので子供や関係者が変わって行っていることが多い。当時の記憶がある世代も近い将来、ゼロになる。そのためイスラエルのホロコースト国立記念館ヤド・バシェムと提携してデータベースを増強して、生存者の記憶が鮮明なうちに、1人でも多くの犠牲者の身元を明らかにしておきたいところだ。

▼アーロルゼンアーカイブセンターではツイッターでも、マイルストーンにしていた2600万の情報を収集してオンラインで公開したことを伝えている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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