英国のホロコースト生存者「ヘイトが拡散されるソーシャルメディアはナチスの宣伝省のよう」

アウシュビッツで英国王室を案内するManfred Goldberg氏(右)(写真:Shutterstock/アフロ)

 1945年1月27日、アウシュビッツ絶滅収容所がソ連軍によって解放されて2020年で75周年を迎える。1月27日は「国際ホロコースト記念日」に制定されている。今年は解放75年ということで世界中から各国首脳らが式典に参加した。第2次大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らが殺害された、いわゆるホロコースト。戦後75年が経過し、ホロコースト生存者らも年々減少してきているが、それでも毎年、国際ホロコースト記念日には多くの生存者やその家族らも式典に参加している。

 1930年にドイツで生まれて、ホロコースト時代には3年半にわたっていくつもの強制収容所を転々とさせられ、1946年にイギリスに移住したManfred Goldberg氏も式典に参加。Goldberg氏は「最近のソーシャルメディア(SNS)での民族憎悪、ヘイトスピーチは、まるでナチスの宣伝省のようです」と語った。

 ナチスの宣伝省の大臣はヨゼフ・ゲッペルスが務めており、反ユダヤのプロパガンダを担っていた。宣伝省はドイツで放送権を握り、大衆用ラジオを大量生産させ、1933年にはラジオを所有する家は100万だったが、1938年には950万の家庭でラジオが聴けるようになった。宣伝省では放送に次いで映画館での宣伝とプロパガンダ映画や「ドイツ週間ニュース」製作を積極的に推進していった。映像による暗示と音楽効果を取り入れたドイツ週間ニュースではドイツ国防軍が常に勝利を続けており他の映画作品よりも人気だった。ナチスはラジオ、放送、映画というメディアを通じてドイツ国民の意識の統合を図ろうとしており、その中に反ユダヤもあった。

 Goldberg氏は「現在のソーシャルメディアでの発言はあっという間に拡散されて、誰もが発言することができて非常に影響力があります。これらのソーシャルメディアでの発言に対しては、何かしらのコントロールがないと、議論を戦わせることもできません。ソーシャルメディアは誰にでも開かれた場所であり、そこには反ユダヤのプロパガンダやフェイクニュースも存在しています。ヘイトスピーチやフェイクがあっという間に拡散されてしまい、人々を間違った方向に導いてしまいます。このようなソーシャルメディアでの行き過ぎた発言に、いずれ何人かの政治家が勇気をもって対応してくれることを期待しています」と語った。

 さらに「発言の自由が大切なことは理解しています。但し、発言の自由と人々を傷つけ暴力に至るヘイトスピーチは大きく異なります。現在のソーシャルメディアでのヘイトの拡散は、あたかもナチス時代の宣伝省を思い出します。そしてソーシャルメディアの方がナチスの宣伝省よりも、はるかに拡散力もあり、何倍もの影響力を持っています」とコメント。

 1930年代から40年代のラジオ(国民受信機)や映画館での映画上映と、2020年代のソーシャルメディアでは媒体や情報の伝達手段も大きく異なる。ソーシャルメディアでは誰もが情報発信して、あっという間に世界中の多くの人々に拡散される。ホロコーストで600万人以上のユダヤ人が犠牲になったが、現在でも反ユダヤ主義の風潮は欧米では根強い。そして日本人の目にはあまり止まらないが、ソーシャルメディアには反ユダヤやヘイトの投稿が今でも多い。2019年12月末にはニューヨークでユダヤ教ラビ(宗教的指導者)の自宅が襲撃されたり、反ユダヤ主義のヘイト(民族憎悪)が繰り返されていた。またロンドンでも同時期にシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)やユダヤ人商店に反ユダヤ的な落書きが書かれる事件が起きていた。ホロコースト前夜の欧州と同じ状況でないかと危惧されている。