英国ホロコースト博物館、写真だけでは伝わらないワルシャワゲットーの姿をVRで

(写真:Shutterstock/アフロ)

 英国のノッティンガムシャー州にある国立ホロコーストセンター博物館(The National Holocaust Centre and Museum in Nottinghamshire)では、VR(バーチャル・リアリティ:仮想現実)を活用して、ナチス・ドイツ占領下時代のポーランドのワルシャワゲットーの様子の展示を行っている。「The Eye as Witness」と呼ばれる展示で2020年3月24日まで行われている。

 ナチス・ドイツ時代に約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らが殺害されたホロコースト。その多くがポーランドに住むユダヤ人で、ワルシャワだけで当時30万人以上のユダヤ人が住んでいた。ナチスに占領されたポーランドでは各地にユダヤ人を集めたゲットーが建設された。『戦場のピアニスト』や『シンドラーのリスト』などホロコーストを扱った映画ではゲットーのシーンがよく出てくる。アウシュビッツなどの絶滅収容所に移送される前にゲットーに収容されていた。ユダヤ人をゲットーに閉じ込めることによって、ユダヤ人をポーランド社会から際立たせ、困惑させ、孤立させることが目的だった。ゲットーへ移住を強いられたり、避難する人たちは食べ物も衣服もベッドなどの必需品もなく、ゲットーでも仕事にありつける機会もほとんどなく死んでいった。ゲットーでの生活があまりにも過酷で、不衛生で多くのユダヤ人が発疹チフスや飢え、寒さでワルシャワゲットーが存続していた2年半の間に約10万人が死亡した。

VRでのゲットーの様子。写真には写っていない兵士も見られる(University of Nottingham)
VRでのゲットーの様子。写真には写っていない兵士も見られる(University of Nottingham)
実際に残っているゲットーでの様子を撮影した写真
実際に残っているゲットーでの様子を撮影した写真
上記写真を元に製作されたVRで覗いたゲットーでの様子。兵士に取り囲まれたユダヤ人(University of Nottingham)
上記写真を元に製作されたVRで覗いたゲットーでの様子。兵士に取り囲まれたユダヤ人(University of Nottingham)

 当時のポーランドのゲットーの様子を伝える写真なども残っているが、そのほとんどが占領していたナチス・ドイツによるプロパガンダのための写真であり、真実のゲットーの様子を伝えていないものが多い。ゲットーではドイツによって宣伝映画の撮影も行われた。いわゆるヤラセ場面も多い。プロの映画スタッフやカメラマンも来て、ゲットーの物乞いやユダヤ人の酷い生活を撮影した映画や写真も多かった。それらを見せつけてユダヤの汚らしさを立証し、嫌悪感をかきたてようとしたようだが、これらの映画は大戦中公開されることはなく、戦後に一部がベルリンの公文書館で発見された。ゲットーの様子がユダヤへの嫌悪感よりも同情を呼び覚ましかねないと宣伝省が危惧したせいだろうと推測されている。

 そこで英国の国立ホロコーストセンター博物館ではVRを活用して、写真の裏側にある"真実のゲットーの様子"を伝えようとしている。VRでのゲットーの様子は国立ホロコーストセンター博物館とノッティンガム大学が共同で、当時の写真を元に製作した。

 ノッティンガム大学のMaiken Umbach教授は「VRを通じて、写真だけでは伝わらなかったゲットーの姿をじっくりと考えることにつながるだろう。例えば、実際にはもっとたくさんの兵士がユダヤ人を取り囲んでいたはずだ。VRではゲットーでのあまりにも酷い暴力を見せるシーンは使いたくはなかった。今回のVRでの展示の目的は、写真だけは伝わらないホロコーストやゲットーの様子を感じて欲しいことと、しっかりとホロコーストについて考えてもらいたいことだ」と語っている。

 ゲットーの様子や強制収容所の写真は歴史書で見かけることも多いが、そのほとんどが加害者であるナチス・ドイツか解放した連合軍が撮影したものである。写真や映像だけでは表面的な一部分しか映っていないものが多く、またプロパガンダ目的で撮影されたものもある。VRを通じてゲットーの本当の姿や様子を伝えようとしている。だが、VR技術が発達しても、不衛生な環境で飢えやチフスに苦しみ、絶望、怒り、恐怖、孤立感が支配するゲットーでの生活のリアルは実際に当時ゲットーでその思いを経験した人だけにしかわからないのだろう。

▼当時のワルシャワゲットーの写真と動画(ヤド・ヴァシェム)