米国の高校生、VRでアウシュビッツ収容所の生存者の体験を学習:バラックでの生活から人体実験まで
アメリカ・インディアナ州にあるサリバン高校(Sullivan High School)の1年生のクラスで、VR(仮想現実)を活用してホロコースト生存者のEva Kor氏の体験を伝える授業が行われた。第2次大戦時にナチス・ドイツによって約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らが殺害された。終戦から70年以上が経過し、当時のホロコーストを経験した生存者の多くが死亡してしまい、当時の様子を伝えられる人も減少している。このVRを通じてホロコーストの経験を語っているEva Kor氏も、2019年7月に他界している。現在、欧米ではホロコースト生存者の記憶が鮮明で元気なうちに、彼らの当時の体験について多くの証言を収集して、それらをデジタル化して保存し次世代に伝えていこうとしている。このVRはインディアナポリス・ロイヤル基金の寄付によって教育用プログラムとして開発された。
Eva氏の体験をVRで学習できるプログラムは「Virtual Reality: An Eva Experience」と呼ばれ、学生らはVRのヘッドセットを装着して、VRを通じて、Eva氏が体験したホロコーストを学習できる。1934年にルーマニアで双子として生まれたユダヤ人のEva氏は、約110万人以上が殺害されたアウシュビッツ絶滅収容所に移送され、メンゲレ博士の人体実験の犠牲にもなった。人体実験では多くの双子が実験で殺害されたが、Eva氏は幸いにも生き抜くことができた。戦後、アメリカでホロコースト博物館を設立して、自身や生存者の体験、当時の様子を伝えてきていた。
VRでは生前のEva氏がナレーターとしてアウシュビッツ絶滅収容所での様子を解説している。アウシュビッツに到着して、労働できるかどうか「選別」されるところから始まる。選別で「労働に適さない」と判断された老人や子供はガス室で殺害された。また収容所での囚人が生活していたバラックの様子、メンゲレの人体実験の様子などがVRを通じて見ることができる。メンゲレは当時、"優秀なアーリア人の増殖”を目的に双生児出生に関する実験を行い、収容所に移送されてきた双子の多くはその日のうちに殺害されて、2つの内臓を比較するための解剖手術が行われていた。そしてメンゲレは解剖で得られた人体の切片と報告書をベルリンのダーレム発生生物学・遺伝学研究所に送っていた。メンゲレらがアウシュビッツで行っていた人体実験の医学的写真は戦争末期に、ナチスが自分たちの敗走前に処分した時に、処分を命じられた囚人たちが混乱に乗じて、できるだけ多くの写真を隠したり、埋めたりして救い出した。そのおかげで、現在まで約4万枚の写真が残っており、それらの多くがデジタル化されて保存されており、当時の非人道的な人体実験の様子を後世に伝えている。
VRを通じてEva氏のホロコースト体験を生前の本人の解説で学習した学生は「VRを通じて見た収容所のバラック、実験場の様子は歴史の本を読んで知ることとは全く異なった体験をすることができました」と語っていた。また別の学生は「本当に印象的でインパクトがありました。またEva氏が戦後にメンゲレやナチスを赦したことに共感しました。私が日々の生活の中で不満に思っていることなんて、とっても小さなことだと思いました」とコメント。
ホロコースト生存者の「記憶のデジタル化」が欧米で進められており、このようにVRを通じてホロコーストやアウシュビッツ絶滅収容所での体験ができる。VRを通じての学習は歴史の本でテキストで読むよりも、視覚を通じて当時の様子が伝わるので臨場感はある。だが、VRでどれだけ精確に再現できても、あくまでも仮想現実である。VRヘッドセットを外したら平和な現実世界に戻ることができる。アウシュビッツでの日々の恐怖、死の臭い、飢え、寒さと暑さ、人体実験の苦痛と死の恐怖といった本当の地獄はそこに収容されていた囚人にしか理解できないだろう。
▼生前にホロコースト時代の経験を語るEva Kor氏