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ラバーダック、アウシュビッツ絶滅収容所の死の門の前に登場しネット炎上

佐藤仁学術研究員・著述家
(Atukapilインスタ)

 世界中の観光名所などを旅して、そこに黄色いアヒル「ラバーダック」を置いて写真を撮影し、インスタグラムで発信しているブロガーがいる。そのラバーダックがポーランドにあるアウシュビッツ絶滅収容所の入り口に登場。インスタグラムで公開された写真に批判が殺到し、ネットが炎上していた。現在では投稿は削除されている。

 ナチス・ドイツによって第2次大戦時に約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らが殺害された。アウシュビッツ絶滅収容所ではガス室での殺害、餓死、病死などで約110万人以上が殺害された。ホロコーストの象徴的な収容所の1つで、現在でもアウシュビッツは観光地として有名。日本人にはあまり馴染みがないが、毎年世界中から200万人以上が訪問しており年々増加している。特に、最近ではヘイトスピーチや民族憎悪が世界中で社会的課題になっていること、欧米では反ユダヤ主義が根強く残っていることから、欧州やイスラエルからは学生らが社会科見学にもたくさん来ている。

 ラバーダックが置かれて撮影されていた場所はアウシュビッツ絶滅収容所の入り口で欧州中から鉄道で到着した終着地点で、アウシュビッツの観光名所の1つで多くの人が写真を撮影している。鉄道といっても、旅客列車ではなく貨物列車か家畜車で運ばれ、しかもアウシュビッツまでの運賃まで支払わせられていた。真っ暗闇の貨車の中に、ぎゅうぎゅうに立ちっぱなしで閉じ込められて、電気や冷暖房設備はおろかトイレもなく、食事も飲み水も与えられずに何日間にもわたって運ばれてきたため、移動中に貨物車の中で発狂してしまう人や、死亡する人も多かった。またアウシュビッツに到着して貨物車から追い立てられるように降ろされると、その場で「選別」と呼ばれる強制労働に適しているかどうかの判断をされて、適さないと判断された老人や子供らはすぐにガス室で殺害された。アウシュビッツの鉄道の終着地はホロコーストの犠牲になったユダヤ人らにとって、まさに生死の分かれ目の場所であり、生き残った人たちにとっては家族との永遠の別れの場でもあり、地獄の入り口でもあった。

 過去には、アウシュビッツでは、線路上に立って平均台のように歩いている写真をSNSに投稿して炎上していたこともあった。当時、アウシュビッツ博物館は自身のツイッターで「ここで犠牲にあった人々の思いに敬意を払ってください」と訴えていた。

 今回のラバーダックのインスタへの投稿を踏まえて、アウシュビッツ博物館は自身のツイッターで「たとえ意図的でなかったとしても、死の門の前にラバーダックが置かれていることは失礼なことだと思いませんか?それともこのようなビジュアルを我々は受け入れるべきなのでしょうか、もしくは無視するべきなのでしょうか?」と呼びかけていた。

▼アウシュビッツ博物館も自身のツイッターで問題提起

▼線路上に立って平均台のように歩いている写真をSNSに多数投稿する人が多くてネットが炎上していた時に、アウシュビッツ博物館は「ここで犠牲にあった人々の思いに敬意を払ってください」と呼びかけていた。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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