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バヌアツ、世界初の民間ドローンによるワクチン輸送

佐藤仁学術研究員・著述家
(UNICEF)

世界初、民間ドローンによるワクチン輸送

 南太平洋の国バヌアツで、世界初の民間ドローンによるワクチン輸送が行われた。ワクチンの輸送範囲は、島の西部ディロンズベイの険しい山岳地帯から東部の遠隔地クックスベイまで約40kmにわたり、そこで13人の子どもと5人の妊婦が公認看護師によってワクチンの接種を受けた。生後1カ月のJoy Nowaiが民間の小型無人機ドローンで遠隔地の島に届けられたワクチンを接種した、世界で最初の子どもとなった。クックスベイは、小さく、分散したコミュニティで、保健センターも電気もなく、徒歩か小型船を除いてはアクセスできない。

 ワクチンはある特定の温度で運ぶ必要があるため、輸送の難しさがある。気温が暖かく、約1300kmの範囲にわたり80以上の、山の多い、遠隔地の島々が広がり、道路の数も限られるバヌアツは、ワクチン輸送にとって特に厳しい環境下にある。結果として、同国の子どもの約2割、或いは5人に1人が子どものころに必要なワクチン接種をできないでいる。

 エロマンゴ島へのドローン輸送で、ワクチンは発泡スチロールの箱に、氷袋と温度の測定記録装置とともに入れられて運ばれた。ワクチンの温度が許容範囲から外れた場合には、電子インジケーターが起動するようになっている。

 12月初旬に行われた輸送試験では、バヌアツの保健省がユニセフの協力を得て、Swoop AeroとWingCopterのドローン企業2社の操縦士によるドローン輸送試験を実施した。ドローン輸送の成功のカギを握っているオーストラリアのSwoop Aero社は、50kmにわたって多くの島々やウェイポイント(経路上の地点)を越えた後、搭載物を目標地点の2m以内に投下することに成功した。本プロジェクトは、バヌアツの保健省および民間航空局が主導し、ユニセフ、オーストラリア外務貿易省、および世界エイズ・結核・マラリア対策基金が協力している。

 政府が民間のドローン企業と契約を結び、ワクチンを遠隔地に輸送することは世界的にも初めて。バヌアツ政府は今後、長期的視点から、ワクチンのドローン輸送を国の予防接種プログラムに統合し、保健物資を輸送するといったさらに広い用途でのドローン利用も検討する予定。また輸送試験によって得られたデータは、同様の状況に直面している世界の国々において、どのようにドローンが商業利用できるかという点を検討する上でも活用されていく。

(UNICEF)
(UNICEF)

ユニセフ「世界中でワクチン輸送を」

 ユニセフ事務局長ヘンリエッタ・フォア氏は「ドローン輸送は小規模なものですが、世界の保健衛生にとって大きな一歩です。支援を届けるのが最も難しい遠隔地の子どもへの予防接種は今も困難が伴いますが、ドローン技術によって、そのラストマイル(ワクチンを届ける最後の区間)を乗り越え、変革をもたらすことができます。初めて行われたワクチン輸送は、バヌアツにとってだけでなく、世界中でワクチンを受けられずにいる何千人もの子どもにとっても大きな可能性を秘めています。最高のイノベーションであり、世界の子どもたちにさらに手を差し伸べる、民間企業の潜在性を解き放つものでもあります」とコメント。

 ドローンで届けられた最初のワクチン接種を担当した看護師は 「川を渡り、山を越え、雨の中を歩き、岩棚を越えていく時、ワクチンを冷却するための保冷ボックスを携帯するのは至難の業です。私はよく船を利用しますが、悪天候のためしばしば運航中止になります。ワクチンの旅路は長く厳しいのが常であるため、子どもたちのワクチンを接種しに行けるのは月に1回のみです。しかし今、このドローンを使えば、島の最も遠隔地域で暮らすより多くの子どもにワクチンを届けられるようになると期待しています」と語った。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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