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上映から25年『シンドラーのリスト』北米でリバイバル:スピルバーグ監督「現代の方がこの映画は重要」

佐藤仁学術研究員・著述家
(Schindler's list 25th anniversary)

「新たな世代にも見てもらいたい」

 1993年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の映画「シンドラーのリスト」が今年で上映25年を迎える。それを記念してアメリカとカナダで2018年12月7日から「シンドラーのリスト」のリバイバル上映が開始された。

 「シンドラーのリスト」はナチスドイツがユダヤ人を迫害していた第2次大戦時に、ユダヤ人を工場労働者として雇用することによって、ユダヤ人を救ったドイツ人実業家の実話を元にしたホロコースト映画の代表的な作品。アカデミー最優秀作品賞・監督賞を受賞するなどスピルバーグ監督の代表作でもある。

 ユダヤ人であるスピルバーグ監督は「もう最初に上映してから25年が経つとは信じられない。ホロコーストは決して忘れてはいけない重要な問題だ。『シンドラーのリスト』は、現在でも人種差別や民族差別の問題において重要である。再び、観客の皆様がスクリーンで映像を見てくれることを誇りに思います。『シンドラーのリスト』は20世紀において、最も重要な映画の1つで、新たな世代にも見てもらいたい」とコメントしていた。

南カリフォルニア大学ショア財団研究所は教育用映像も無料で提供

 スピルバーグ監督はユダヤ人だが、アメリカに生まれたため、彼自身はホロコーストを経験していないが、南カリフォルニア大学にショア財団研究所を設立するために、多額の寄付を行っている。1994年に設立された南カリフォルニア大学ショア財団研究所は、20年以上にわたって、ホロコーストに関するあらゆるデータや生存者の証言を集めてデジタル化して保存したり、録画した証言をYouTubeで全世界に配信したりしている。またホロコーストだけでなく、アルメニア、ルワンダやグアテマラの大虐殺など55,000以上の証言を集めている。またデジタル化された映像をホロコーストの教育に活用されている。

 南カリフォルニア大学では、今回の「シンドラーのリスト」リバイバルに合わせて、無料で高校生向けのホロコースト教育用の動画を製作して配布していた。スピルバーグ監督は「南カリフォルニア大学ショア財団研究所は、世界最大のホロコースト関連のデータや情報を収集しているキュレーション機関であり、とてもユニークなポジション。人種差別や民族差別に関する教育用デジタルコンテンツも多く提供している。ショア財団研究所で収集したホロコースト生存者らの証言は非常に重要で、人種差別問題を考えるのにとても重要なものばかりだ」と語っている。

「現代の方が人種差別やヘイトスピーチなど考えなくてはならない問題が山積み」

 映画「シンドラーのリスト」は、ホロコースト時代のユダヤ人のゲットーでの生活、差別や迫害、強制収容所の様子などを描いており、映像を通じて世界中の人々、特にホロコーストを知らない世代にホロコーストのインパクトを与えた。

 スピルバーグ監督は米国NBCのインタビューで「1993年に『シンドラーのリスト』が上映された時よりも、現代においてこの映画がリバイバルされることの方が非常に重要だ。現代の方が、映画が初上映された1993年当時よりも人種差別やヘイトスピーチなど考えなくてはならない問題が山積みだ。ヘイトスピーチや人種差別問題は、いずれユダヤ人ホロコーストのようなジェノサイド(大量虐殺)につながりかねない。現代こそ、もっと真剣に世代を超えて、それらの問題について考えていかないといけない」と語った。現在でもシンドラーに救われたユダヤ人の子孫(「シンドラーのユダヤ人」)は全世界で8500人以上いる。

 

▼「シンドラーのリスト」25周年オフィシャル・トレイラー

▼インタビューに答えるスピルバーグ氏(NBC)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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