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「水晶の夜」から80年:独メルケル首相、シナゴーグで講演「デジタル世界での人種差別増加を懸念」

佐藤仁学術研究員・著述家
ベルリンのシナゴーグで「水晶の夜」80年目に講演を行ったメルケル首相(写真:ロイター/アフロ)

メルケル首相、ベルリンのシナゴーグで講演

 ドイツのメルケル首相は2018年11月9日にベルリンのRykestrasseシナゴーグでスピーチを行った。シナゴーグはユダヤ教の寺院。11月9日は80年前の1938年にドイツ全土で「クリスタルナハト(水晶の夜)」と呼ばれた日で、ユダヤ人に対する暴力、ユダヤ人店舗の略奪、破壊が行われた。ユダヤ寺院のシナゴーグも襲撃、放火された。店舗やシナゴーグの破壊されたガラスが夜の月明かりに照らされて「水晶」のようだったので「水晶の夜(クリスタルナハト)」と呼ばれている。当時、多くのドイツ人がユダヤ人迫害に加担、もしくは見て見ぬふりをしていた。その後、第2次大戦での欧州全体でのナチスによる約600万人のユダヤ人大量虐殺のホロコーストへと繋がっていった。「水晶の夜」ではドイツとオーストリアの1400のシナゴーグが襲撃されたが、メルケル首相がスピーチを行ったベルリンのシナゴーグも80年前の11月9日はドイツ人暴徒たちによって、徹底的に破壊された。

 メルケル首相は「水晶の夜」80年を迎えて「現在のドイツにも2つの喫緊の問いがある。1つは『現代の我々がユダヤ人迫害(ホロコースト)から何を学ぶべきか?』、もう1つが『我々の民主主義は現在でも反ユダヤ主義に対抗できているのだろうか?そして将来にも反ユダヤ主義が登場しないような環境だろうか?』」と問いかけた。さらにメルケル首相は「水晶の夜がホロコーストへ繋がっていった。ナチズムは1日にして作られたものではなく、徐々に形成されていった」と述べた。

「デジタル世界での人種差別にはきっぱりと反対を表明していく」

 ドイツだけでなく世界中でSNSやネット上では人種差別の発言が目立っている。誰もがネット上で自由に発言や投稿できるようになったが、その中では人種差別や反ユダヤ主義のコメントが現在でもなくなっていない。

 そのことを踏まえてメルケル首相は「現在でも人種差別や反ユダヤ主義は消えてない。そして公共の場所だけでなく、特にオンラインやネットでの反ユダヤ主義や人種差別の煽動は増加している。急速なインターネット技術の発展によって、デジタル化が進んで生活や社会が良くなってきている。一方で、デジタルの世界に取り残されて不安になっている人もいる。さらにオンラインでの人種差別や言葉の暴力も増加している。そのようなオンラインやデジタル世界での人種差別や言葉の暴力にきっぱりと反対を表明していくことが、人種差別をなくすことの第一歩だ。我々人間は一人一人がユニークな存在で、同じではない」と語った。

 約600万人のユダヤ人が殺害されたホロコーストから約80年が経ち、当時の生存者たちも高齢化が進んでいき、当時のことを知っている人も少なくなってきている。そこで現在、ドイツやイスラエル、アメリカなどで「ホロコーストの記憶のデジタル化」が進められており、当時の映像や写真、ユダヤ人らの体験記などのインタビュー動画などがネットで公開されている。

▼「水晶の夜」の解説動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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