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全国の駅で「やめましょう、歩きスマホ。」キャンペーン:歩きながらのメッセージ返信はさらに危険

佐藤仁学術研究員・著述家
(電気通信事業者協会提供)

 全国の鉄道事業者45社局、日本民営鉄道協会、日本地下鉄協会、電気通信事業者協会、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが共同で「やめましょう、歩きスマホ。」キャンペーンを2018年11月1日から実施している。

 キャンペーン期間は11月1日から30日まで。期間中は駅構内ポスター、車内ポスターを掲出する他、車内ディスプレイ広告の掲載、ポケットティッシュの配布等の取り組みを行う。駅施設内などでの携帯電話・スマートフォンのながら歩きによる利用客同士の衝突や線路へ転落等の事故を防止するため、安全な利用を推進する。

 実際に「歩きスマホ」をしている人には、このポスターが目に入らないかもしれないが、今回のポスターは2パターンで「歩きスマホ」の注意喚起を呼び掛ける。

(1)「即レスしなかった程度で失われるものを、友情とは呼ばない。」

(2)「ぶつかった、とあなたは思う。ぶつかってきた、と周りは思う。」

LINEなどのレスは歩くスピードも遅くなる

 「歩きスマホ」は危険であることから、このように駅では「歩きスマホ」をやめるようにポスターを掲載したり、放送で積極的に注意喚起を呼びかけている。しかし駅で「歩きスマホ」をしている人は一向に減らない。「歩きスマホ」をしているから目と脳はスマホの中のSNSやゲーム、メッセージなどに集中しているから、ポスターにも気が付かないだろうし、注意喚起の放送も耳に入らない。

「即レスしなかった程度で失われるものを、友情とは呼ばない」(電気通信事業者協会提供)
「即レスしなかった程度で失われるものを、友情とは呼ばない」(電気通信事業者協会提供)

 駅では混雑していようとも多くの人がスマホを見つめている。スマホを手に持たないと駅で電車を待つこともできないし、乗り降りもできないのではないかと思うくらい、多くの人がスマホを手に持って見つめている。そしてそのまま歩いて「歩きスマホ」になる。

 今回のポスターで「即レスしなかった程度で失われるものを、友情とは呼ばない」とあるが、LINEなどのメッセージの返信をしながら「歩きスマホ」をしている人は、動画やニュースを見ている人よりも、さらに動きが遅い。メッセージを頭で考えて、しかも文章をうっているので、神経と指先がスマホとメッセージの返信内容に集中しているので、ただスマホで動画などを見ているよりも歩くスピードも遅くなり、さらに周囲が見えにくくなるので、非常に危険だ。かつ動きもノロノロなので周囲の人にも迷惑だ。

 駅のホームでの「歩きスマホ」による転倒や衝突でトラブルも発生している。まして線路への転倒すれば、どれだけ危険なのかは想像すれば誰にでもわかるだろう。現在、多くの駅でホームドアの設置が進んでいるが、それでもまだ全ての駅で導入されているわけではない。「白線の内側におさがりください!」と駅員が大きな声で注意放送をしていても、スマホに集中しているから、聞こえないのだろう。しかもスマホで動画を視聴して、イヤホンをしている人も多く、自分のことを放送で注意されていることに気がついてない。

「歩きスマホ」で列車と接触、死亡事故も

 そして「歩きスマホ」をしている人は「自分だけは大丈夫」という自己中心的思考に陥ってしまっている。そして衝突すると、自分は「LINEしてんだから」「ゲームしてんだから」「SNS見てんだから」と、自分の不注意を棚に上げて、まるでぶつかった相手が悪いかのように怒りを表すことが多い。さらに電車に乗る時も降りる時もスマホの画面を見ているから、スムーズに乗降できないので電車遅延の要因にもなる。

「ぶつかった、とあなたは思う。ぶつかってきた、と周りは思う。」(電気通信事業者協会提供)
「ぶつかった、とあなたは思う。ぶつかってきた、と周りは思う。」(電気通信事業者協会提供)

 今回のポスターの1つが「ぶつかった、とあなたは思う。ぶつかってきた、と周りは思う。」である。「歩きスマホ」をしていて、人にぶつかること自体が問題だが、人でなく電車に接触しては命に関わる。特にホームドアがない駅では、電車に接触しそうな距離で「歩きスマホ」をしている人もいて、非常に危険である。2018年7月には、JR東海道線の東静岡駅で中学校3年生の男子生徒が「歩きスマホ」をしながらホームを歩いて、ホームから足を踏み外し、後ろから入線してきた列車と接触し、ホームとの間に挟まれて死亡するという悲惨な事故が発生した。

 「歩きスマホ」で「自分だけは大丈夫」ということは絶対にない。視線と神経がスマホに集中しているから、周囲に目が届かないし、周囲の動きに気が付かない、また気が付いてからも今まで神経はスマホに集中していたから咄嗟の判断と動きが鈍くなる。ましてイヤホンまでしていたら、聞こえも悪いからますます危険である。そのような状態で歩いている人が駅にはたくさんいる。また「歩きスマホ」は自分が線路に転落するだけでなく、ぶつかった相手を転落させてしまったり怪我をさせてしまったりと加害者にもなりかねない。

 スマホを見る必要があるなら、安全な場所で立ち止まって確認すればいい。スマホの世界的な規模での普及によって「歩きスマホ」による事故は日本だけでなく世界規模での社会的課題になっている。そして「歩きスマホ」が危険だと頭では理解しているが、ついやってしまい、やめられないのだ。だが「歩きスマホ」は命をかけてまでやることではない。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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