米国、ホロコースト生存者の記憶を子供にも:ショートフィルム「The Podkamieners」

森に身を潜めるシーンをアニメで表現。「The Podkamieners」より

 ニューヨーク在住のプロデューサーSarah Kamaras氏は2018年6月、ホロコースト時代の生存者たちの記録をアニメと当時の映像を活用したショートフィルムを作成して公開。ショートフィルム集のタイトルは「The Podkamieners」。Podkamienとはポーランドの町の名前。「The Podkamieners」とは、その町の人々という意味。Kamaras氏の家族もポーランドのその町の出身でホロコースト生存者。

アニメも挿入して子供にもわかりやすく

 ショートフィルムでは、ホロコースト生存者の5つの家族の実際のストーリーと体験を、当時の映像や写真のほかにアニメを挿入することによって、子供たちにも当時の様子をイメージしやすいように製作している。ショートフィルムはホロコースト生存者の高齢化が進み、もう当時の記憶がある人がいなくなってしまう将来の世代のために、生存者が存命のうちにデジタルで製作。かつ当時のホロコーストの様子やシーンを、子供でもイメージしやすいように一部をアニメで表現している。

当時の様子をアニメで表現「The Podkamieners」より
当時の様子をアニメで表現「The Podkamieners」より

「彼らの沈黙にも耳を傾けないといけない」

 Kamaras氏は「ホロコーストを体験した世代がいなくなってしまってからでも、当時の様子を人々に訴えかけられるものを作りたかった。アニメを挿入することによって、新しい世代にも訴えかけることができる。また、これらのショートフィルムは現代のアメリカ社会にはびこっている反ユダヤ主義やレイシズムと戦うことにも役立つと思う」と語っている。

 また彼女の祖父母はホロコーストが行われていた16か月間、ゲットーや森の中に身を潜めていたため、殺害されずに生き残ることができた。「ユダヤ系アメリカ人としてホロコーストは強制収容所に収容されたユダヤ人の生存者のイメージが強いが、私の祖父母はそうではない」とも語っている。彼女のショートフィルムに登場するホロコースト生存者たちは、祖父母の親しい人たちばかりだ。「当時、Podkamienの町には2000人が住んでいて、ユダヤ人は1000人だったが、生き残ったのは60人~70人だった。だから、生き残った人たちは、みんな家族のようになった」とも。

 Kamaras氏は、記憶のデジタル化による継承としてショートフィルム製作にあたって、生存者へインタビューした際に「全ての生存者が当時の様子を語ってくれたわけではない。話したくない、思い出したくない人も多かった。彼らの沈黙にも耳を傾けないといけない」と悟った。Mark Gellar氏は自身の経験を子供たちから聞かれても、答えて来なかった。いつも「そんな質問するな」と言ってきたそうだ。Kamaras氏はそのような生存者たちの気持ちを汲んだ、真実を伝えるためのショートフィルムの製作に心がけてきた。

「ショートフィルムなら子供たちでも見て理解できる」

 「歴史は繰り返すと言われている。そのためにも過去の歴史を学ぶことが大切だ。ジェノサイド(大量虐殺)は現在でも世界で起こっており、無くなっていない」と語るKamaras氏は現在、博物館や学校などで、ショートフィルムを活用した教育を行うためのパートナーを探している。「子供たちは、ホロコーストのドキュメンタリーや当時の映像を1時間も座って見ていることには耐えられない。あまりにも残酷すぎるからだ。だがアニメが挿入されたショートフィルムなら10分程度なので、子供たちでも見て理解することができる」と語っている。

 ホロコースト生存者が高齢化し、当時の記憶の様子をデジタル化して保存し、将来の世代に継承しようという動きは世界中で進められている。アニメと当時の映像や写真、現在のホロコースト生存者の語りがフィルムの中で融合しているのは、ホロコーストのドキュメンタリーとして非常に珍しい。記憶と歴史はデジタル化して継承するだけでなく、語り手の当時の経験を頭の中で想像しながら、イメージを膨らませることが大切だ。歴史とは想像力だ。

The Podkamieners

ホロコースト後にイスラエルに移住するシーンもアニメで表現「The Podkamieners」より
ホロコースト後にイスラエルに移住するシーンもアニメで表現「The Podkamieners」より