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ロヒンギャ:難民キャンプで生まれる赤ちゃん、毎日60人以上:ほとんどが性暴力、モンスーン被害も懸念

佐藤仁学術研究員・著述家
生後3日の赤ちゃんに寄り添う18歳の母親 (C) UNICEF

ほとんどが性暴力の被害

 ミャンマーのラカイン州で暴力が発生し、何千もの家族がふるさとから逃れ国境を越えることを余儀なくされてから9カ月。バングラデシュのコックスバザールの難民キャンプと仮設居住地区で生まれたロヒンギャの赤ちゃんの数は9カ月で16000人にのぼると2018年5月にユニセフ(国連児童基金)は発表。

 2017年8月にラカイン州で新たな暴力の波が生まれてから、女性や女の子に対する性的暴力が広く報告されていた。そして2017年9月以降に生まれた赤ちゃんのうち、保健施設で生まれたのは5人に1人にあたる約3000人のみ。保健施設で出産する母親の数は全体の18%程度しかいない。

 性的暴力の被害を受けた女性や子どもたちは、コックスバザールに暮らす80万人以上のロヒンギャ難民の中でも、最も弱い立場に置かれ、社会からも取り残され、特別な支援が必要であるにもかかわらず、非難に晒されたり、さらなる迫害を受ける恐れがあるために報告できない人も多い。

難民キャンプで生まれた赤ちゃん、9カ月で16000人

 ユニセフ・バングラデシュ事務所代表エドゥアルド・ ベイグベデル氏は「毎日約60人の赤ちゃんが、ふるさとから遠く離れた劣悪な状況で、避難を強いられ暴力やトラウマ、時には性的暴力の被害にあった母親たちから生まれてきます。これは、とても人生の最善のスタートと呼べる状況ではありません」と語っている。また、「性的暴力の結果として生まれたあるいは今後生まれてくる赤ちゃんの正確な数を把握することは不可能。しかし、大切なのは、全ての妊婦とすべての赤ちゃんが、彼らが必要とする支援とケアを受けられるようにすること」と話している。

 ユニセフはパートナー団体と協力して、母親と赤ちゃんに産前産後のケアを提供しています。難民キャンプ全体で150以上の母親グループが結成され、ユニセフのケース・ワーカーは定期的に母親たちの仮設住居を訪問し、健康状態を確認し、ケアを提供し、必要に応じて専門医を紹介しているものの、追いついていない。ユニセフはより多くの女性が産前産後に確実に保健施設に足を運ぶよう、250人以上のコミュニティ・ボランティアを動員しているが、問題の根本的な解決には至っていない。

 さらにユニセフは、適切かつ法的な新生児の出生登録のための働きかけを行っている。特に出生登録がない赤ちゃんは、本来彼らに受ける権利がある「命に関わる基本的サービス」を受けることができない。だが出生登録されていない、あるいは身分を証明する書類がない子どもたちは、教育や保健、また社会保障のサービスの対象から外されてしまう。また公式な書類がない子どもが家族と離ればなれになったなら、家族と再会できることは非常に難しい。つまり、登録されていない「不可視」の子どもたちは、さらに弱い立場に置かれ、権利が侵害されても誰にも気づかれない危険がある。紛争や政情不安の時に、新生児の出生登録を支援することは緊急的な優先事項になっている。

竹の橋で遊ぶロヒンギャ難民の子ども (C) UNICEF
竹の橋で遊ぶロヒンギャ難民の子ども (C) UNICEF
ジフテリアの予防接種を受けるロヒンギャの男の子 (C) UNICEF
ジフテリアの予防接種を受けるロヒンギャの男の子 (C) UNICEF

モンスーンによる被害も懸念

 またバングラデシュでは、モンスーンの被害も毎年酷い。6月〜9月がモンスーンの季節だが、4月26日には嵐で難民キャンプ内の仮設住居が破壊され、多くの世帯に影響が出た。モンスーンの嵐の中、多くの子どもたちが居住する仮設住居の屋根の上に座り、ビニールの屋根が吹き飛ばないように押さえていた。ユニセフによると、55000人の子どもを含む10万人以上の人々が、洪水や地滑りの危険に直面している。健康状態にも影響を与える。感染症、汚れた水や不衛生な環境、怪我のリスク、急性の栄養不良によって既に免疫力が低下している赤ちゃんや子どもたちをさらに苦しめる。

 モンスーンの暴風雨で、子どもたちは命を守るための医療サービスを受けられなくなる懸念もある。特に洪水で、急性の水様性下痢症に苦しむ人々が増える。ユニセフでは、今後3カ月間において、急性の水様性下痢症を治療するなど、約1万人の人々(55%が子ども)を支援するために、下痢治療センターを新たに5カ所建設。医薬品も配置。それでも、ユニセフが支援する24の保健施設のうち少なくとも3カ所は洪水に遭う恐れがあり、25000人から30000人の人々に影響が及ぶ可能性があり、このうち半数は子どもであることをユニセフは報告している。

身元確認のための防水ブレスレット配布。だが実際には・・

 また、モンスーンの被害で、キャンプが崩壊し、家族が離れ離れになって、子どもがいなくなった時にすぐに探し出して、身元を確認できるようにするために、ユニセフでは25万本のプラスチック製の防水ブレスレットも配布し、子どもたちに着けるように指示している。また、家族が離れ離れになった時に、どこに報告し、どこに探しに行くべきかの支援も行っている。だが、上記のように実際には、離れ離れになっても登録されていないことから、身元確認できない子どもや赤ちゃんも多くいる。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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