カナダ、オンライン・ホロコースト博物館「Building New Lives」開設
カナダのモントリオールのホロコースト博物館が、オンラインでの「ホロコースト博物館」を2018年3月14日に開設した。オンライン博物館の名前は「Building New Lives」で英語とフランス語で解説している。Virtual Museum of Canadaの支援を受けて、3年にわたって開発をしてきた。オンライン(ネット)なので、誰もが世界中から無料でアクセスできる。
オンライン博物館では1933年から1955年にカナダに移民として来た35,000人以上のユダヤ人に焦点をあてている。ナチスがユダヤ人を迫害していた第2次大戦時期にはカナダでは5000人しか移民を認めていなかったそうだ。
オンライン博物館のエグゼクティブディレクターのAlice Herscovitch氏は「リアルな博物館と異なり、オンライン博物館ではカナダにやって来る前の生活と、カナダに来てからのユダヤ人の生活にフォーカスをあてている。20人のユダヤ人の物語は現代社会が直面する移民難民問題と重なる部分もある。難民問題の解決は容易ではないが、すべてのカナダ人にアクセスして見てもらいたい」とコメント。
ナチスドイツは約600万人のユダヤ人を殺害。カナダに移民として来られた人たちは、まさに奇跡的に生き延びてこれた人たちだ。そのようなカナダ在住のユダヤ人たちのそれぞれの物語をオンラインで展示している。例えば1938年、19歳の時にカナダに移民として来たドイツ系ユダヤ人のGerhart Maass氏は「ドイツのユダヤ人は東欧のユダヤ人を助けてあげることができなかった。『犬とユダヤ人は立ち入り禁止』という看板をよく見かけていた」と当時の思い出を語っている。また現在カルガリーに住む1928年ポーランド生まれのElliott Zuckier氏はゲットーに押し込まれ、アウシュビッツ絶滅収容所を生き延び、1947年に他の1200人の移民と一緒に幸運にもカナダに来ることができたと語っている。オンライン博物館のオープニングセレモニーに参加したSarah Engelhard氏はフランス系ユダヤ人で1944年に450人の移民とともカナダに到着。当時12歳だった彼女は「現在、私がここにいるのは奇跡」と語っている。
オンライン博物館では、ホロコーストの生存者でカナダに移住してきたユダヤ人らの証言やインタビューを動画で撮影して公開もしている。証言者や生存者、移民してきたユダヤ人のアーカイブをカナダ中から収集。カナダにはモントリオールのホロコースト博物館だけでなく、トロント、バンクーバー、オンタリオのホロコーストセンターやいくつかの大学も協力して情報収集を行い、これからもコンテンツは充実していく。
世界中で進むホロコーストの記憶のデジタル化
ホロコーストの生存者たちで当時のことを鮮明に覚えている人たちは、もう85歳以上だ。彼らの記憶力も体力も衰えてきている。そのため、ホロコーストの記憶のデジタル化や、当時の遺品や写真などのデジタルによる保存は世界中で進んでいる。特に動画やVR、ホログラムなどデジタル技術を活用して、保存や再現を行っている。例えば、ホロコースト生存者の証言を3Dで再現したホログラムも、例えば米国のイリノイ州にあるリアルなホロコースト博物館で展示されている。
リアルなホロコースト博物館は欧米では多くの都市にある。地元に住んでいるユダヤ人の生存者らの当時の写真や遺品、文書などを展示している。たしかに実際にリアルな博物館で、当時の写真や遺品などを目の当たりにする方がインパクトはある。中には目を背けたくなるような悲惨な写真や遺品も多い。そのような博物館ではホームページは存在しているが「オンライン博物館」ではない。
カナダのオンライン博物館は無料でアクセス可能だから、展示品の収集やサイトの維持にはコストが相当にかかるだろう。そのため、資金力がない博物館がオンライン博物館を開設して展示することは難しい。だが、オンラインで展示することによって、世界中の人がネットを経由していつでも、どこからでもアクセスすることができるようになり、当時の様子を誰にでも伝えることができるようになることのインパクトも無視できない。