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米国バージニア大学、ホロコースト時代のゲットーのデジタルマップ制作へ

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:Shutterstock/アフロ)

 米国のバージニア大学の教員らがホロコースト時代の研究として当時のゲットーのデジタルマップを制作しようとしている。ホロコーストとはナチスドイツがユダヤ人を迫害、殺害したことで欧州で600万人以上のユダヤ人が殺害された。ナチスが支配した地域では、多くのユダヤ人が強制収容所に送られる前に、ゲットーと呼ばれるユダヤ人専用の地域に強制移住させられた。日本人には馴染みがないかもしれないが、映画「シンドラーのリスト」や「戦場のピアニスト」などホロコースト関連の映画ではゲットーのシーンがよく登場する。

 バージニア大学の教員のWaitman Beorn氏がウクライナのルヴフのゲットーと、その付近にあったヤノフスカ強制労働収容所近辺の地図をデジタル化して構築しようとしている。当時ルヴフにいたユダヤ人16万人のうち、情報が残っているのが約18,000人分。ルヴフでは8万人以上のユダヤ人が殺害されたそうだ。

過密なゲットー「誰がどこで、どのような生活をしていたのか」

 収集した情報やデータを元に、当時のゲットーや周辺地域を地図上にマッピングしていき、ブロックごとに、誰がどこに住んでいたのかなどの詳細情報のタグ付けとプロットする作業を行っていく予定だ。現在、約18,000人の残存している情報のうち、約16,000人分の住民の名前、住所、誕生日、職業などをプロットしている。来年までに完成してホロコースト時代の研究ツールとして活用していくことを目指している。デジタルマップでは利用者が地図上をクリックすると、そこに住んでいた人が誰で、どのような職業だったかなどがわかるようだ。

 Beorn氏は「莫大なデータがあるので非常に大変な作業だが、貴重な情報だ。ルヴフは強制収容所とゲットーが非常に近接していたことから歴史家の研究対象としても重要なケース。当時の情報を元にデジタルマップを制作することによって、当時のユダヤ人らがナチス支配下で『誰がどこで、どのような生活をしていたのか』といったホロコースト時代のゲットーでの人々の生活を理解することに役立つと信じている」と語っている。

 また「当時のユダヤ人らの名前が、ただリストとして存在するのではなく、例えばその人が看護婦だったというような情報があると、そこには人々の歴史があったことがわかるし、それが重要なこと」とコメント。他にも狭くて不衛生なゲットーの建物の様子や、ナチスが強いていた門限が人々の生活にどのような不自由さをもたらしていたか、食料品の調達をどのようにしていたか、などゲットーでの生活もデジタルマップからわかるようにしていきたいとのこと。

 当時、ゲットーに指定されたのは、多くの場合、町の中でも一番古く、寂れた場所で、都市としての基本的便益である舗道や照明、下水道や衛生施設を満たしていないような地域だった。またユダヤ人は最初からそのゲットーに住んでいたわけではなく、各地に住んでいるユダヤ人が強制移住させられてきたのだ。しかもかなり狭い地域に大量の家族が密集して生活をしていた。不衛生で食料もなくチフスも蔓延するなど苛酷な生活環境を強いられていた。そして病気、強制労働、処刑など常に死と隣り合わせだった。多くのユダヤ人らが殺害され、戦後も混乱していたし、ソ連では情報が開示されることもなかった。

 情報やデータが開示され、収集できるようになった。デジタル技術の発展によって当時の住所と住人などをマッピングできるようになった。デジタルマップがこれからのホロコースト時のゲットー研究に寄与することが期待されている。

作製中のデジタルマップ。クリックすると住んでいた人や職業などが表示される。(バージニア大学)
作製中のデジタルマップ。クリックすると住んでいた人や職業などが表示される。(バージニア大学)

▼(参考動画)1939年当時の平和な時代のルヴフでのユダヤ人の生活(ヘブライ大学)

▼(参考動画)戦前のウクライナでのユダヤ人の生活が垣間見れる貴重な動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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