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米国のユダヤ博物館、ホロコースト生存者とパネルを通して「バーチャル対話」

佐藤仁学術研究員・著述家
(Chicago Tribune)

 アメリカのニューヨークにあるユダヤ歴史博物館で2017年9月から、ナチス時代のユダヤ人大量虐殺ホロコーストの生存者たちとデジタルで「バーチャル対話」ができる展示を行っている。

 ナチスドイツ時代にホロコーストの犠牲者は欧州全土で600万人以上。ホロコースト生存者らを高精細カメラで収録して、音声認識技術で見学者が質問したことに対して、パネルに映る生存者らとバーチャルで対話ができる。展示名は「証言の新たな側面(New Dimensions in Testimony)」。このシステムは南カリフォルニア大学のショア財団研究所が開発に協力。生存者から52,000以上のインタビューを通じて作成した。

20,000以上の質問に回答

 生存者のほとんどがもう高齢だ。展示で対話できる生存者は、トロント在住のPinchas Gutter氏(85歳)とロンドン在住のEva Schloss氏(88歳)。Eva Schloss氏はナチス占領下のオランダで隠れ家で書いた「アンネの日記」のアンネ・フランクの義理の姉で、1945年に収容されていたアウシュビッツで解放された。

 Pinchas Gutter氏はパネルを通じて20,000以上の質問に回答が可能。例えば「死の行進はどういうものだったの?」と尋ねると、音声を認識してパネルを通じて「囚人は2週間以上も歩かされて、半分しかテレジエンシュタットに到着できなかった。残りの囚人は途中の道路で殺されたか、死んでいった」とバーチャルに回答してくれる。他にもEva Schloss氏にアンネ・フランクについて尋ねると「アンネはとても賢い子だった」と回答する。

 本展示を企画したHeather Smith氏は「バーチャル対話はホロコーストの映像資料や歴史書の読書とは異なり『生存者の個人の歴史』を学習することができる」とコメントしている。たしかにパネルを通して生存者の顔を見て、様々な質問をして、声を聞くことは、紙の本で証言集を読むよりもホロコーストのリアリティを実感できるだろう。

ユダヤ歴史博物館の「バーチャル対話」を報じる動画。2017年12月末まで展示。

 ユダヤ歴史博物館(Museum of Jewish Heritage)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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