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Apple、2017年にインドネシアで研究開発センター設立へ:無視できなくなった新興国市場

佐藤仁学術研究員・著述家

Appleが2017年中にインドネシアの首都ジャカルタに研究開発センターを新設する予定だ。インドネシアの情報通信大臣のRudiantara氏が明らかにした。現在最終段階まで交渉が進んでいるとのことだ。Appleからはまだ正式なアナウンスはない。

アジアでは日本、中国、インドに次ぐ

Appleがアジアで研究開発センターを設置するのは日本、中国と現在計画中のインドに次いで4か国目となる予定だ。日本は言うまでもなくAppleのiPhoneが大人気の市場で、Appleにとっては無視できない市場だ。中国もiPhoneが大人気で、しかも人口13億人以上の巨大市場だ。インドではiPhoneは人気がない。端末価格が高いからだ。インドのような新興国ではスマホは100ドル前後で、なかには50ドル以下の廉価なスマホも多数ある。しかもMicromaxなどの地場メーカーや中国のスマホメーカーの人気が高く、それらはほぼAndroidだ。iPhoneは廉価でスマホを販売しないので、基本的にインドでも日本でも欧米でも同じ価格で販売する。そのためインドでは500ドル以上の高価なiPhoneを購入できる人は限られている。それでも人口12億人以上で、近い将来に中国を抜くであろう巨大市場はAppleにとっても無視できない。

すでに多くの人がスマホを持っているインドネシア
すでに多くの人がスマホを持っているインドネシア

Appleも欲しい巨大市場インドネシア

そしてインドネシアもインドと同じようにAppleのiPhoneは高価すぎて購入できる人が限定されているので普及していない。だがスマホの普及は物凄い勢いで、ジャカルタのような大都市では誰もがスマホを所有して、TiwtterやFacebook、InstagramなどのSNSやゲームや動画を視聴して楽しんでいる。さらに人口も東南アジア最大の2億5,000万人以上の巨大市場だ。

そしてインドネシアでは4G対応スマホはインドネシア製の部品やコンテンツを一定の割合で使用しなくてはならないため、サムスンや中国メーカーなど多くのメーカーがインドネシアで販売するスマホの生産拠点をインドネシアに移している。さらにインドネシアの地場メーカーも多く存在している。インドネシアはたしかに人口は東南アジア最大だが、中国やインドのように経済格差が大きくないので、スマホの普及率は高く、競争が非常に厳しい。

このような街の店舗で多くのインドネシア人はスマホを購入する(ジャカルタ)
このような街の店舗で多くのインドネシア人はスマホを購入する(ジャカルタ)
このような店舗にiPhoneは販売していない(ジャカルタ)
このような店舗にiPhoneは販売していない(ジャカルタ)

Appleも無視できなくなった新興国市場、2018年にはフィリピンにセンター設立?

それでもAppleはiPhoneの出荷と売上が世界規模で減少している。また日本や欧州以外での売上も減少している。特にインド、インドネシアなどの新興国市場では上述のように、高価な端末は購入できる人が限定されているのでAppleの存在感はない。だがAppleとしても世界規模でのiPhoneの出荷や売上減少や、Apple全体の収益の柱がサービスへ移行しつつある中、新興国市場をいつまでも無視できない。2018年にはフィリピンにも研究開発センターを設立するのではないかという報道もある。フィリピンもまもなく人口が1億人を超えると予測されている東南アジアではインドネシアに次ぐ巨大市場である。また英語も通じるのでAppleとしても進出しやすい。

インド、インドネシア、フィリピンではAppleの存在感が小さいとはいえ、国としての人口が多いから購入者もある程度は存在している。だが、新興国市場の人はスマホに対して実利的であり、Appleのスマホやサービスにブランド力を感じない。iPhoneにステータスを感じているのは中国市場だけだ。スマホでやることはSNSのチェックや写真撮影、動画視聴などiPhoneであれ、地場の安いスマホであれ、ほとんど同じなので、あえて高価なiPhoneである必要はない。新興国市場の多くの人が非常に実利的だ。これからはAppleも新興国市場向けの廉価なスマホを製造しないとやっていけなくなり、いつまでも高価なiPhoneだけに固執していられる時代ではなくなるかもしれない。一方で、廉価なスマホは機能や品質で差別化が難しいのでAppleらしさを出せないうえに、既に新興国には大量に存在している。廉価なスマホが主流な新興国市場ではAppleもかなり後発となるので、決して安泰ではない。

▼Appleの2016年Q4(7~9月)の地域別での売上高とシェアの推移

(Apple決算資料を元に作成)
(Apple決算資料を元に作成)

▼同期の製品別での出荷台数、売上高および売上高に占めるシェア

(Apple決算資料を元に作成)
(Apple決算資料を元に作成)
学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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