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AppleのクックCEO、売上が落ち続けている中国訪問:中国初の研究開発センター設立で復活なるか

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

Appleのティム・クックCEOが2016年8月に中国を訪問している。クック氏はここ3か月で2回も中国を訪問している。

Apple、中国に研究開発センターを開設へ

新華社通信によると、第一副首相の張高麗氏とも会談を行っているようだ。その会談の中でAppleは、同社にとって中国では初となる研究開発センターを設置することを明らかにした。中国政府も海外企業からの投資を誘致したいから、Appleからの申し出は喜ばしいことだろう。

iPhoneをはじめとするAppleの製品の多くは中国の委託先の工場で製造されているが、Apple自身が研究開発センターを中国に初めてだそうだ。研究開発センターは2016年中に開設して、中国での営業チームと技術チームを集約させていき、そこから中国だけでなく全世界のAppleユーザーに向けて新たなサービスやプロダクト開発をしていくそうだ。中国市場はAppleにとって、委託先製造工場の労働問題、偽物対策や商標問題など多くの対応しなくてはならない案件が存在している。

売上が落ち続けている中国市場

Appleにとってはアメリカに次いで巨大市場だった中華圏(中国、香港、台湾)は重要な市場だが、その中国でも売上が前年同期比33%減少と大きく減少している。Apple全体に占める売上も2015年Q2は26.7%占めていたが、2016年Q2には20.9%まで減少してしまった。Appleの中国での出荷と売上は年々減少し、現在では欧州市場の方が売上が大きい。但し、欧州市場は20か国以上もあるので、やはり1つの国としての中国市場はAppleとしても無視できない巨大市場であることは間違いない。2015年の1年間でAppleは中国市場で5,840万台のスマホを出荷している。

中華圏でのAppleの売上推移 (Apple決算資料を元に作成)
中華圏でのAppleの売上推移 (Apple決算資料を元に作成)

台頭する中国メーカーと停滞するApple

IDCは2016年8月15日、中国での2016年第2四半期(4月~6月)のスマホ出荷台数を発表した。それによると前年同期よりも4.6%増の1億1,120万台だった。同時期の全世界でのスマホ出荷総数が3億4,330万台だったことから、世界中で出荷されているスマホの3台に1台が中国だ。

かつては中国のスマホ市場で1位だったサムスンは完全に中国市場のトップメーカー争いから姿を消してしまい、現在は中国メーカーが上位を占めている。特にOPPOとvivoの台頭は凄く、かつて勢いがあったXiomi(小米)の出荷が落ちている。Appleも出荷台数は減少しているが、辛うじて5位に入っている。

それでもまだ中国人にとってスマホはiPhoneが人気だ。見栄っ張りの中国人の多くが好んで利用しているのはいまだにiPhoneだ。中国人にとって最新のiPhoneを所有していることは、一種のステータスだ。また中国ではスマホ自体も大きなディスプレイの端末が好まれるから、小型の「iPhone SE」は中国市場では人気がなかった。次にAppleから登場すると噂されているiPhone7が中国市場でリリースされるまで、購入を控えている中国人が多いことや、中国人にとって魅力的なApple端末の新製品がなかったことが、中国市場でのAppleの出荷台数減少に影響している。

Appleとしてはなんとかして中国市場で再起を図りたいところだ。まずは次の新製品が中国市場でどのくらい売れるかが喫緊の課題だ。現在、多くの中国人にスマホが行き渡ってしまい、スマホ自体での差別化が難しくなってきた。見栄っ張りだが実利主義的な中国人にとって、最新のiPhoneを所有していることも、いつまでも中国人にとってステータスではなくなるだろう。iPhoneに変わるステータスシンボルなスマホが登場する可能性もある。中国市場で安定した売上を回復するためにも、Appleとしては中国の研究開発センターから中国人の購買意欲を掻き立てるような新たなサービスやプロダクトを創出していきたいところだ。

2016年Q2の中国におけるスマホ販売台数とシェア(IDC発表資料を基に作成)
2016年Q2の中国におけるスマホ販売台数とシェア(IDC発表資料を基に作成)
学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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