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インド:「400円スマホ」赤字覚悟で「Freedom251」販売開始、インド政府に支援要請

佐藤仁学術研究員・著述家

2016年2月にインドの地場メーカーRinging Bellsから「Freedom 251」という3G対応のスマホが製品名と同じように251ルピー(約400円)でついに販売が開始された。ついに10ドル以下の「400円スマホ」という世界中のスマホでも新製品としては相当な安値である。

「400円スマホ」は1台の製造コストは1800円で、アプリ収入を引いても400円の赤字

Rising Bellはインドの首都ニューデリー近くのノイダに2015年に設立されたばかりの新興企業で、2016年2月に発表してからオンラインで予約を受け付け「Freedom 251」は7,000万台の注文を受けたそうだ。6月中に予約のうち250万台を出荷し、その後1カ月に20万台ずつ出荷していく予定だと報じられている。

インドでは大量にスマホが普及しており、地場のインドメーカーや中国のメーカーが大量に進出しており、インドだけで150社以上のメーカーからスマホが出荷されていて、競争が非常に激しい。そのインドでも今回の「400円スマホ」というインドでも破格の価格だ。多くのインドのスマホの新製品では平均価格は50ドル~100ドル(約5,000円~10,000円)くらいだ。だから「400円スマホ」は10分の1以下の価格であり、インド人も驚いている。

Ringing Bellsから登場した「Freedom 251」も251ルピー(400円)での販売だが、実際の製造には1台につき1,180ルピー(約1,800円)かかっており、そのうちアプリ開発事業者から1台につき700ルピー(約1,000円)~800ルピー(約1,200円)の収入は期待できるとしても、それでも1台につき180ルピー(約300円)から270ルピー(約400円)の赤字になるそうだ。

もっともRinging Bellsは400円スマホ以外にも、他のプロダクトも販売しており、それらは他のインドのメーカーと同じような価格だ。今回の「400円スマホ」は誰も知らなかったRinging Bellsという会社名を世界中に知らせるのには成功したけど、あまりにも注文が多すぎて、出荷が増えれば増えるほど赤字も増加してしまうプロダクトだ。

「400円スマホ」を持つMohit Goel氏
「400円スマホ」を持つMohit Goel氏

インドでのスマホ普及に向けてインド政府に支援を要請しているが

同社のDirectorのMohit Goel氏は「政府からの支援が必要だ」と述べている。実際にインドのモディ首相に手紙を書いて、インドでのスマホ普及に向けての支援を要請したそうだ。インド政府からの返答は来ていないようだが、インドでは現在モディ首相が主導して「Make in India」という施策を行っている。これはインドでの製造業を中心とした産業新興によるインド国内の発展を目指している政策だ。

だが、Ringing Bellsから登場した「Freedom 251」は「400円」という破格の値段は魅力的だが、スペックとしては他のメーカーから出ているスマホと大差はない。実際に赤字を出しているから400円にできるだけであり、企業として収益を上げられる価格で販売したら、他メーカーとの差別化はほとんどない端末だ。

インド政府としてもRinging Bellsへ財政支援をするようなことがあった場合「どうしてRinging Bellsを支援するのか?どうして他メーカーじゃないのか?」と他メーカーや市民から突っ込まれるだろう。

今回、Ringing Bellsは「400円スマホ」で知名度はインドだけでなく世界中で高くなったが、あまりにも「400円スマホ」が有名になり過ぎて注文が殺到してしまい赤字も拡大してしまう。「400円スマホ」のインパクトは大きいが、企業経営としては決して安泰ではなさそうだ。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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