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Facebookメッセンジャー利用者8億人突破:メッセージアプリ普及の背景は拡散しすぎた「電話番号」

佐藤仁学術研究員・著述家

Facebookは2015年1月8日に同社が提供しているメッセンジャーの月間利用者が全世界で8億人を突破したことを発表した。

Facebookの利用者は15億5,000万人で、傘下にはメッセンジャー以外にも全世界で9億人以上が利用しているWhasAppがあり、さらにメッセンジャーも8億人が利用している。中国ではFacebookが利用できないから、中国以外の世界のメッセージアプリのほとんどをFacebookが牛耳っていることになる。

■電話番号が消える?

Facebookはメッセンジャーが8億人突破の発表時に、メッセージ部門担当副社長のDavid Marcus氏は2016年のメッセンジャーの行方として5つ掲げていた。その中の1つに「メッセンジャーの普及によって電話番号が消えるだろう」とコメントしている。

たしかに、現在では日本でもLINEやメッセンジャーの普及で電話番号やメールアドレスを知らなくても連絡が取れる環境になっている。電話番号やメールアドレスを知らなくても、LINEやメッセンジャーを知っているので通話やメールに困らないという人も多いだろう。電話番号やメールアドレスは既に消え始めている。

■メッセンジャー普及の要因は、氾濫しすぎた「電話番号」

「メッセンジャーが普及したから電話番号が消える」ように見受けるが、実際には「電話番号が氾濫しすぎたからメッセンジャーが普及した」のだ。

日本だけでなく海外でもメッセージアプリが人気があるが、その背景としてスマートフォンが急速に拡大したことと、電話番号が氾濫したことがある。従来、フィーチャーフォンの時代にはショートメッセージ(SMS)でテキストのやり取りをしていた。

海外では今でもメッセージアプリと併用してSMSの利用が一般的である。日本では15年以上前から、NTTドコモなどの通信事業者が提供しているメールサービスの方が一般的であったことや、通信事業者間でのSMS送受信が長いことできなかったことから、SMS利用は一般的でなかった。メッセージアプリは無料だからSMSよりも人気がある。そしてSMSよりもメッセージアプリの方が使い勝手が良いのだ。

■プリペイドSIMカードによる「電話番号」の氾濫

新興国を中心とした海外の多くの国では日本のようなポストペイド方式ではなく、プリペイド方式でSIMカードを購入するのが主流である。東南アジアやインド、アフリカ、中南米では90%以上がプリペイド方式である国がほとんどである。

プリペイドでは使いたい時にSIMカードを購入し、残金が無くなったら必要に応じてチャージをしていく。そのため、1人で複数枚のSIMカードを持っている人が多いので、携帯電話の人口普及率は100%を超えている国がほとんどである。1人で1つの会社のSIMカードを複数持っていることも珍しくない。人々は携帯電話会社に対して愛着や固執は全くない。長期利用者割引のようなものが少ないため、常に新しいキャンペーンを行っていると「キャンペーン対象のSIMカード」を購入して通信費用を少しでも安く済ませる。そしてキャンペーン期間が終了してしまったら、そのSIMカードは使われなくなることも多い。

SIMカードは1枚につき1つの電話番号である。プリペイドのSIMカードを頻繁に買い替えている人が多いということは、その都度電話番号が変わっているのである。電話番号が変わると相手にSMSを送付しても、相手はその番号をもう利用していないということになる。1人で複数枚SIMを利用している場合、そのSIMの電話番号にメッセージを送付しても携帯電話に挿入してない、ということも多くある。

■人間関係の崩壊を回避するメッセージアプリ

新しいSIMカードにした時に仲が良い友人や家族にはすぐに通知するだろうが、頻繁にSIMカードを買い替えていくうちに、通知するのも面倒になってくることがある。もはや電話番号に基づいたメッセージのやり取りが面倒になってしまう。そうなると、例えば以前に電話をかけた番号、SMSを送信した電話番号ではもう連絡が取れなくなってしまい、人間関係に問題が生じたり、連絡が取れずにタイミングを失して仕事が来なかったりすることもよくある。こうなると仕事にもプライベートにも支障をきたすことになる。

そこでSIMカード(電話番号)を変えても自分であることが認識されるメッセージアプリの方がSMSよりも使い勝手が良くなる。SIMカードが変わって電話番号が変わったとしても、メッセージアプリであれば、相手に新しい電話番号を通知して自分であることを認識してもらう必要はないから利便性が高い。

このような背景があり、メッセージアプリが普及することによって、電話番号が消えていくのではなく、電話番号(SIMカード)があまりにも氾濫してしまったので、メッセンジャーアプリがコミュニケーションのプラットフォームとして普及してきたのだ。

そして、電話番号は回線(ネットワーク)である。通話もSMSもデータ通信も回線(ネットワーク)は必要である。電話番号、つまり回線(ネットワーク)が無くなることは当面はない。利用者が電話番号を意識しなくなるだけだ。

SIMカードは籠に入れられて大量に販売されている
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SIM売り場の後ろには電話番号一覧が掲載されている
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縁起の良い番号の数字が続く電話番号は高値で売られている
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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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