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世界最大のメッセンジャーWhatsApp、月間利用者9億人突破:世界中の情報が欲しいFacebook

佐藤仁学術研究員・著述家

世界最大のメッセンジャーアプリWhatsAppの月間アクティブユーザー数(MAU)が9億人突破した。2015年9月4日にWhatsAppの共同創業者Jan Koum氏が自分のFacebookに書き込んで明らかにした。

■Facebookが2兆円以上で買収した老舗メッセンジャーアプリWhatsApp

2014年2月にFacebookが当時4億人の月間利用者がいたWhatsAppを160億ドルで買収することを発表した。2014年10月に総額218億ドルという破格の金額で買収が完了した。買収完了時には既に6億人の月間利用者がいた。このようにFacebookに買収される前からWhatsAppは世界最大のメッセンジャーアプリで、シンプルで広告もなく人気が高かった。

WhatsAppはFacebookが買収して、現在はFacebook傘下となったが、現在でもブランドもそのままだし、サービスが大きく変わったということもない。また現在でこそスマートフォンの普及に伴って世界規模で拡大しているメッセンジャーアプリだが、WhatsAppはスマートフォンがここまで世界中で普及する前の2009年5月からサービスを提供しており、当時(現在でも)のNokiaのフィーチャーフォン(Series40)にも対応しており、スマートフォンを利用する前からWhatsAppを利用していた人が多く存在したことも、世界規模での拡大の要因になったと考えられる。

そして2015年4月にWhatsAppの月間利用者が8億人を突破したばかりだったが、あっというまに9億人を突破した。

WhatsAppという世界最大のメッセンジャーアプリを傘下にもっているFacebookは自身でもMessengerというメッセンジャーサービスを提供しており、こちらは2015年6月に月間利用者が7億人を突破している。ソーシャルメディアとしてのFacebookは利用しないけど、Messengerを利用したいからFacebookの登録だけは行っているという人も世界中で多い。かつてLINEの人気が高かったインドネシアやタイでもMessengerの利用者が急増している。

■パーソナルアシスタントサービス「M」の発展に向けても欲しいWhatsAppからの情報

Facebookは2015年8月にMessengerを利用したパーソナルアシスタントサービス「M」の提供をアメリカの地域限定で開始した。Facebookという巨大なプラットフォームに収集された情報を元に人工知能が解析して、利用者の質問に対応して回答を提供したり、利用者に代わってレストランの予約やチケットの購入などができるようになる。世界中の7億人のMessengerの利用者からは莫大な情報が収集できる。

そして現時点ではWhatsAppとMessengerの統合については何も明言されていないが、同じFacebookの傘下として統合することも容易であろう。そうなると更に多くの情報が世界中から集まり、それらがFacebookの人工知能の発達にも寄与してくれるだろう。またたとえMessengerとWhatsAppが統合されなかったとしても、WhatsAppからも相当な情報が収集できる。

メッセンジャーアプリでやりとりされている情報は、個人個人にとってはゴミのような情報に思えるかもしれないが、「誰が、いつ、どこに、誰と行って、何をどれだけ買って、誰が好きで誰が嫌いか、誰とよくメッセージをするか、どういうことに興味あるのか」といった日々の個人の行動や趣向に関する情報が満載である。これらの情報が世界中から集まることによって、人工知能は強化されていく。

「M」は人工知能だけに依存せずに、実際の人間が対応して回答していることを特徴としているが、そんなことを世界7億人以上のMessenger利用者に提供するのはリソースの限界がある。現在の人工知能では、利用者が満足できる回答をできないであろうから、人間を介することでサービスの充実を図っているが、人工知能が発展し強化されたら、人間を介する必要もなくなってくるし効率的だ。人工知能の強化のためには、世界中からの多くの情報が必要であり、それには多くの利用者を抱えて、彼らが毎日多くの情報をやり取りしてくれることが重要だ。

■Googleも欲しかったWhatsApp

日本ではメッセンジャーといばLINEだが、世界中のメッセージを牛耳っているのはFacebookだ。LINEも世界では2億人以上の利用者がいるが、9億人のWhatsAppと7億人のMessengerと比べるとまだ小さい。

FacebookがWhatsAppを買収する前には、GoogleもWhatsAppを買収したいという報道が多かった。Googleは世界中のあらゆる情報を収集しているが、ソーシャルメディアとしてGoogle Plusは成功しているとは言えないし、主要なメッセージサービスを持っていない。GoogleとしてはWhatsAppを欲しかったであろう。

FacebookがWhatsAppを買収した時、2兆円を超える買収額に驚いた人も多かった。WhatsApp自身は現在も赤字であり、Facebookにとって大きな収益貢献にはなっていない。それでも世界で9億人が利用するコミュニケーションのプラットフォームとして成長しており、現在でもその成長が続いている。そして毎日のように世界中で「他愛のない話」がWhatsApp上で繰り広げられている。だが、利用者にとっては何の価値もないと思っている「他愛のない話」もFacebookにとっては貴重な情報であり、宝の山であろう。Facebookにとって2兆円を超えるWhatsAppという買い物は長い目で見たら失敗ではなかったのだろう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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