Yahoo!ニュース

新興国のスマートフォン市場を開拓したいGoogleの「Android One」

佐藤仁学術研究員・著述家

2015年6月26日からミャンマーでもGoogleの「Android One」OSを搭載したスマートフォンが販売開始されると発表された。フィリピンのCherry Mobileが製造した「Android One」OSを搭載したスマートフォンを109,000チャット(約99ドル)で販売する。

■「次の50億人(next five billion)」を対象にした「Android One」

「Android One」OSは、2014年6月に行われたイベント「Google I/O 2014」で発表された。新興国を中心にまだスマートフォンを持っていない「次の50億人(next five billion)」を対象に、低価格なスマートフォンを提供することを目指している。ハードウェアの共通スペックでリファレンスモデルを用いることでコストを抑えている。そのため高機能な端末には向いていない。メーカー側が独自に搭載したい機能などに制限はあるが、それでも「価格が安い」方が重要という新興国市場向けである。

そして2014年9月にインドで6,399ルピー(約105ドル)で、「Android One」OSを搭載したスマートフォン3機種の販売開始を発表し、インドの地場メーカーMicromax、Karbonn、Spiceから販売された。Micromaxは「Android One」スマートフォンを2014年9月のローンチから2015年2月までに40万台以上販売した。また同社ではインドの他に2014年12月からスリランカ、バングラディッシュでも「Android One」スマートフォンを販売している。Spiceは今後、バングラディッシュ、ミャンマーでの「Android One」スマートフォン販売を予定していると報じられている。

さらに2015年2月にはインドネシアの地場メーカーNexian、Mito、Evercossの3社からインドネシアで販売されることが発表された。140万ルピア(約110ドル)以下で提供され、Mitoは120万ルピア以下で提供することを明らかにした。Evercossはインドネシアではサムスンに次いでスマートフォンの出荷が多い地場メーカーで、他2社もインドネシアでの知名度は高い。

そして2015年2月にはフィリピンでも「Android One」OSを搭載したスマートフォンが販売が開始された。同国でも地場メーカーのCherry MobileとMy Phoneから5,000ペソ(約120ドル)以下で販売されている。Cherry Mobileはフィリピンのスマートフォンシェア21.9%で1位、My Phoneは11.2%で3位である。フィリピンもまもなく人口が1億人を突破する見込みで、これからも大きな成長が期待される市場である。

また2015年5月にはトルコでも「Android One」スマートフォン「General Mobile 4G」が販売された。端末価格は699 リラ(約 31,500 円)と他の新興国で販売されている「Android One」スマートフォンよりも3倍くらい価格が高い。端末スペックもQualcomm プロセッサを搭載するなど、従来の「Android One」よりも相当に高機能である。

▼Android One: Apni Kismat Apne Haath(インド 2014年9月)

■新興国のスマートフォン市場を制したいGoogle

「Android One」OSのスマートフォン販売はインド、スリランカ、ネパール、バングラディッシュ、インドネシア、フィリピン、トルコに次いでミャンマーと8か国目となった。Googleが提供しているAndroid OSは全世界のスマートフォン市場で81.5%のシェアを占めている。iOSが14.8%なので、この2つで96%以上を占めている。

しかし新興国ではまだスマートフォンの成長の余地がある。インドでは携帯電話出荷のうちスマートフォンの比率は年々上がってきているものの、まだ35%程度で、フィーチャーフォンの出荷が65%と高い。その理由はスマートフォンよりもフィーチャーフォンの方が安いからである。価格は非常に重要である。さらにインドでは「Firefox OS」を搭載したスマートフォンが地場メーカーIntexから30ドル台で登場しており、その価格はまさにフィーチャーフォンと同じであるためGoogleの「Android One」の105ドルも高価に感じる。最近ではサムスンが2015年初頭にインドとバングラディッシュで販売した「Tizen OS」を搭載したスマートフォンも100万台販売された。

性能や使い勝手にはほとんど大差がないためスマートフォンがAndroidであれ、Firefoxであれ、Tizen OSであれ、ユーザーが利用するアプリは、世界中どこでもほぼ同じである。例えばWhatsAppやLINEのようなメッセンジャーアプリ、FacebookやTwitterのようなソーシャルメディア、YouTubeで動画を見て、ゲームを楽しむなどである。新興国におけるスマートフォン購入の基準は価格である。iPhoneのような高価な端末はほとんど売れない。つまりユーザーから見たら「Android One」である必要はないのだ。このようにGoogleとしても新興国のスマートフォン市場では安泰と言える状況ではない。

▼Android One : Selalu terbaru dari Google(インドネシア 2015年2月)

■新興国地場メーカーの海外進出

今回ミャンマーで販売される「Android One」スマートフォンはフィリピンの地場メーカーCherry Mobileの端末である。ついにフィリピンの地場メーカーがミャンマーに進出するようになった。スマートフォンの登場によって新興国では多数の地場メーカーが勃興し、スマートフォンを販売するようになり、地元では大人気で大きなシェアを獲得しているところが多い。

そしてその新興国の地場メーカーがさらに国外の新興国市場に進出するようになった。既にインドの地場メーカーもバングラディッシュやネパールなど周辺諸国に進出しているが、この動きは今後も加速していくだろう。そして残念ながら、そこにはもはや日本メーカーが入り込む余地はない。

▼Android One: One Will(フィリピン 2015年2月)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事