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<新型コロナ>自粛要請で勤務先が営業自粛。給料はどうなる?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

給料はどうなるだろう?という不安の声

 新型コロナウィルスの感染が広がる中、国や自治体から外出自粛要請が出され、多くの市民はこれにしたがっています。

 そうなると困るのは、飲食・小売りなどのサービス業を中心とした、人が来てお金を使ってくれないと仕事にならない職種です。

 そして、そういった職種では、国や自治体から外出の自粛要請が出ている場合、お客さんも来ないし、また、感染拡大を防ぐことへの貢献もこめて、国や自治体からの自粛要請に呼応する形で店舗自体を休業とするところも出てきています。

 ここで問題は、そこで働いていた人です。

 本来はその日、その時間に働いていたはずの労働者が、勤務先から「コロナで営業しないから来なくていいよ」と言われたとき、もらえるはずだった給料はどうなるのでしょうか?

 私も所属する日本労働弁護団がQ&A(Ver1)を出していますので、詳細はそこに譲るとして、以下、簡単に解説していきます。

使用者の責任で働けなくなった場合の大原則

 まず、労働者が働かない場合でも、給料をもらう権利が消えないというケースがあることを知っておいてください。

 それは、使用者の都合で労働者を休ませる場合です。

 民法という法律に

債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。

という規定があります(536条2項本文*)。

 この「債権者」を「使用者」に、「債務を履行する」を「働く」に、「債務者」を「労働者」に、「反対給付を受ける」を「給料を受け取る」と読み替えてみるとわかりやすいです。

 つまり

使用者の責めに帰すべき事由によって働くことができなくなったときは、労働者は、給料を受け取る権利を失わない。

となります。

 

 この規定によって、使用者の経営判断で労働者が働けないという場合でも、労働者は100%の給料を受け取ることができる、ということが裏付けられます。

*2020年4月1日からは法改正によって「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」に変わりますが、意味は変わりません(太字が変わるところ)。

自粛要請に応えた休業も使用者の責なの?

 さて、問題は、新型コロナ対策で国や自治体から出た要請に応じる形でも休業が、「使用者の責に帰すべき事情」となるかどうかです。

 この場合は、国や自治体の「要請」が法的根拠を伴って強制力をもっている場合は「使用者の責に帰すべき事情」とはならないでしょう。

 しかし、現時点で行われている「要請」は法的根拠のないもので、あくまでもお願いに過ぎません。

 そうすると現在の「要請」を根拠としても、休業するのは経営判断の1つであって、使用者の責に帰すべき休業となります。

 よって、100%の給料を受け取る権利が労働者にはあることになります。

時短勤務やシフトを減らされた場合は?

 次に、シフトを減らされたり、1回の働く時間を短くされるなどした場合、時給制の労働者などを中心に、働く時間が減ったから給料も減ったという話をよくききます。

 この場合はどうなるでしょうか。

 この場合も休業の場合と同様に考えればいいことになります。

 つまり、労働契約で労働日数や労働時間数が決まっている場合は、それを使用者の都合で減らしたとしても、100%の賃金を請求する権利がある、ということです。

 たとえば、週3日働く契約だったのに、これを2日にされた場合や、1日7時間働くことになっていたのに5時間に短縮された場合など、使用者は本来の契約で払っていたはずの賃金を払わなければなりません。

 問題となるのは、労使間で働く日数や時間を何も決めていない場合や、もしくは、その時その時で決めていたような場合です。

 この場合でも、それまでの就労実態からある程度働いていたはずの日数や時間が分かるのであれば、それが合意内容であるとして、減らされた差について請求する権利はあるといえるでしょう。

60%ときいたけど・・・

 こうした場合、多くの解説では60%という説明が多いかと思います。それ自体、間違いではありません。

 ただ、上記に示したとおり、現状は単なる経営判断での休業となりますので、100%の請求が可能です。

 60%という説明は、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」という条文から来ています。

 そして、労働基準法は、労働条件の最低限度を定める法律です。

 もし使用者がこの60%すら払わないと、刑事罰や付加金の制裁があります。そうした強い強制力をもって、最低でも60%の支払いをさせようというのが労働基準法の意味があるところです。

 もし、全く払われない場合で、とにかく60%は払ってほしい!という場合には、労働基準監督署へ申告すれば、法律を守るように指導してくれるはずです(従わないと刑事罰があるので、使用者は普通は従います)。

でも、ちょっと使用者に厳しいのでは?

 そうですね。今回の新型コロナによる営業自粛は、感染拡大を防ごうとする国や自治体の要請に応じたもので、経営者が悪くもなんともありません。

 ただ、労働者の多くは給料と生活がそのままリンクするので、給料は払われなければなりません。

 もちろん、中小企業や零細企業の経営者や、自営業者、フリーランスなど、「働く」ということ自体が減ったり無くなったりしてしまい、収入が減っているこの現状は、等しく厳しい状況といっていいでしょう。

 本来、自粛と補償はセットでないと意味がないのですが、現在まで、自粛の要請ばかりが先行し、補償部分があまりに遅れているといっていいでしょう。

 今ある制度としては、雇用調整助成金があります。企業であればこうした制度を利用しつつ、なんとか労働者への賃金を補償してもらいたいところです。

 とにかく、経営者が安心して自粛に応じられ、また、労働者も安心して外出を控えることができるような、しっかりとした補償制度の構築を一刻も早くしてほしいところです。そうでなければ、労働者も経営者もみんな疲弊してしまいます。

 日本労働弁護団では、4月5日に、「新型コロナウイルス労働問題全国一斉ホットライン」を実施するとのことです。

 詳細はこちらです。

 弁護士にききたいことがあれば、ぜひ、ご利用ください。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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