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労働者側はいない、竹中平蔵氏はいる、そんな<未来投資会議>で雇用制度改革の議論が始まったそうです。

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 こんなニュースが流れていました。安倍総理の記者会見です。

首相「社会保障を3年で改革」臨時国会に改憲案

 記者会見では見出しのように、社会保障や改憲案を出すなどに言及されましたが、労働関連についても言及がありました。

週内にも政府の未来投資会議で、雇用制度改革の具体策の検討を始める。

出典:上記記事

 この一節です。

 未来投資会議で雇用制度改革の具体策??

 一般に雇用制度に関しては厚労省の守備範囲ですが、未来投資会議とは・・?

未来投資会議とは?

 未来投資会議とは、2016年9月に設置され、「未来投資に向けた官民対話を発展的に統合した成長戦略の司令塔」と位置付けられているものです。

 議長に安倍首相。

 議長代理に麻生財務相(副総理)。

 副議長に茂木経済再生担当相、菅官房長官、世耕経産相の3名。

 そして、構成員として、内閣総理大臣が指名する国務大臣、具体的には、石田総務相、根本厚労相、そして、教育勅語活用で話題の柴山文科相、EM菌の平井科学技術担当相、生活保護叩きの片山さつき地方創生・女性活躍担当相が指名されています。

民間から指名されたメンバーは?

 ここまでは政治家ですが、加えて、この会議には「『未来への投資』に関し優れた識見を有する者のうちから内閣総理大臣が指名する者 」も構成員となり、民間人が指名をされています。

 誰が指名されているかというと・・・

 まず、金丸恭文氏。

 金丸氏はフューチャー株式会社代表取締役会長兼社長 グループCEOとのこです。経営者ですね。

 経営者では、他にも櫻田謙悟氏(SOMPOホールディングス株式会社グループ CEO 代表取締役社長・社長執行役員)、志賀俊之氏(株式会社INCJ代表取締役会長、日産自動車株式会社取締役)、南場智子氏(株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長)の面々が名を連ねています。

 あと、経団連会長の中西宏明氏(株式会社日立製作所取締役会長執行役)もいます。

 学者枠では2名おり、五神真教授。東京大学総長で、物理学を専門とされているとのことです。

 そして、なぜか学者枠として竹中平蔵氏もいます。東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授の肩書でエントリーされています。

竹中氏はメンバーにふさわしくない

 しかし、竹中平蔵氏は、学者でもありますが、株式会社パソナグループの取締役会長でもあります。

 パソナグループは、人材派遣会社のパソナなどを擁する人材ビジネスの大手企業です。

 その経営者であるわけです。

 そして未来投資会議では「労働市場」に関する政策を議論するとされています。

 そうすると、モロにパソナグループの業務内容と被ります

 したがって、パソナグループの取締役会長である竹中平蔵氏を構成員とすることは、どう考えても利益誘導につながって問題だと思うのですが、肩書を学者とすることで、それをごまかしています(そもそも議員名簿において、他の人は兼職についても明記されているのに、竹中氏についてはパソナグループの取締役会長であることが記載されておりません)。

 とはいえ、取締役会長である事実は事実ですから、安倍総理が竹中氏を構成員に指名したことは大問題であると思います。

 今すぐに指名を解除すべきでしょう。

 以上の構成員で、雇用制度について検討するとのことですが、賢明な読者諸氏であればお気づきになったでしょう。

 そうです。労働者側の人間がだれもいないのです。

偏りのあるメンバーでの雇用制度の検討は不適切

 上記のとおりメンバーには労働組合の関係者がそもそもいませんし、それに近い立場の人もいません。

 もっと言えば労働法学者さえいません。

 このメンバーで雇用制度について検討することにどれほどの正当性があるのか甚だ疑問です。

 昨日(10月5日)に会議が開かれたようですが、

65歳以上雇用へ法改正検討 未来投資会議

<政府>65歳以上継続雇用へ法改正検討 社会保障費を抑制

なとの報道がなされています。

 今後、こうした高年齢者の雇用制度や、労働市場の流動化に向けた解雇法制の規制緩和などが議論されるものと思われます。

 労働者側からの意見を聴くこともなく、利益誘導をするおそれのあるメンバーを抱え、いったい何を検討するというのか、非常に疑問のある「未来投資」のための会議だと言えるでしょう。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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