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長時間労働を規制せよ

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

民主党が長時間労働規制法案を提出へ

次のニュースが報じられています。

長時間労働規制法案提出へ=民主

これは是非とも実現してもらいたい内容です。

我が国では過労死・過労自死が社会問題となってから、解決するに至っていません。

また、ブラック企業では長時間労働が蔓延しています。

何故なのでしょうか?

その原因は色々と語られるところではありますが、1つの原因として、法規制が甘いということが挙げられます。

(゜-゜)「どういうこと?」

と思うかもしれませんが、まずは労働基準法のこの条文を見て下さい。

第32条

1 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。

2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

(^^)「なんだ、ちゃんと規制されてるじゃん!」

と思うことでしょう。

そうです。一応、ちゃんと規制されています。

1日8時間、1週40時間、これを超えて労働させてはならないのです。

さらに、この条文に違反すると、

第119条  次の各号の一に該当する者は、これを6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

一  第3条、第4条、第7条、第16条、第17条、第18条第1項、第19条、第20条、第22条第4項、第32条、第34条、第35条、第36条第1項ただし書、第37条、第39条、第61条、第62条、第64条の3から第67条まで、第72条、第75条から第77条まで、第79条、第80条、第94条第2項、第96条又は第104条第2項の規定に違反した者

32条、見つけられましたか? 太字にしたので見つけられますね。

そう、違反すると刑事罰があります。

最悪、懲役6カ月です。

1日8時間以上、週40時間を超えて労働者を働かせれば、最悪、懲役くらうわけです!

(^O^)/「やった!ちゃんと、規制されてるんだ!やった!」

と思うでしょう。

ところが、どっこい、そうは問屋が卸さないんですね。

サブロク協定で労働時間規制を簡単に乗り越えられる

みなさん、サブロク協定というのを聞いたことがあるでしょうか?

(゜-゜)「サブロク???」

サブロク協定とは、労働基準法36条に由来する協定です。

第36条1項(分かりやすいように条文を一部略しています。太字だけ読んでも意味が理解できます。)

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条・・・の労働時間・・・に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長・・・できる

(;一_一)「『延長できる』だと・・」

と思いますよね。

実際、労働者に1日8時間、週40時間を超えて残業をさせるには、このサブロク協定がなければいけません。

ただ、このことを逆に言えば、サブロク協定で決めれば残業させてもいい、ということになります。

そして、おそろしいことに、サブロク協定で定められる上限の労働時間について、我が国には法律の規制がありません。

(・。・)「え?」

「え?」って、思いますよね。でも、法律の規制はないんです。

一応、時間外労働の限度に関する基準(平成10 年労働省告示第154 号)というのがあり限度を決めていますが、法律じゃありません。

限度としては、1カ月単位で45時間、1年単位で360時間は、法定労働時間を超えてもいいことになっています。

しかも、この限度時間も超えることができます。

(゜o゜)「え!?」

これは特別条項マジックというもので、事実上、残業させられる時間は青天井になります。

(-_-;)「青天井は言い過ぎでしょ・・」

と思うでしょう。

数年前のことですが、次のニュースが話題になりました。

「過労死基準」以上7割  大手100社残業協定

見出しの残業協定というのはサブロク協定のことです。

ちょっと新しいところで、次の記事もありました。

過労死ライン超え残業協定 経団連役員企業など40社中78%

このように、過労死基準を超えて働かせることができる協定をもっている企業では、合法的な残業をしていると過労死をするというおそろしい現実が起こっても、何らおかしくないのです。

(-。-)「いやいや、でも、残業なんて断ればいいじゃないか」

と思うかもしれませんが、さらに、おそろしいことに、サブロク協定が結ばれていると、残業を断ったらそれを理由に解雇されても有効という最高裁判例があるのです(日立製作所武蔵工場事件(最判平成3年11月28日))。

これで逃げ場はありません。将棋でいうところの詰みです。

このように法的な構造で長時間労働が野放しになっているのが我が国の現状なのです。

どうしたらいいか?

法律がないのならば作ればいいわけです。

大事なのは2点です。

・労働時間の上限を決めて規制すること

・終業から始業までの時間を規制すること(インターバル規制)

政府・与党はこの点全くやる気がなく、残業代ゼロ制度とセットでしか導入しようとしません。これじゃあ意味がありません。

労働者全体にこうした制度を導入する気が全くないのです。

民主党は冒頭に挙げたとおり、法案を提出するようです。

共産党は既に法案を出しています(継続審議扱いとなっていると思います)。

日本労働弁護団は、2014年に、あるべき労働時間法制の骨格[第一次試案]を公表しています。

いずれの政党・団体も、上記2点を含む規制を提唱しています。

長時間労働は、社会にとって害悪です。

長時間労働による疲労によって労働者本人の健康を害すだけでなく、運転手や機械の操縦などの業務では事故もありえます。

また、少子化に拍車をかけ、家族との時間、個人の生活時間を奪うものでもあります。

さらには男性の長時間労働が女性の社会進出の妨げであることも分かってきました。

したがって、長時間労働を規制をすることこそが、日本の働き方の、真の改革なのです。

2016年の国会では、こうした真の改革について、議論がなされることを切に望みます。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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