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「オワハラ」で人材確保? いえいえ、人材確保の王道は他社よりいい労働条件を示すことでしょ?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

オワハラって何?

最近、オワハラという言葉をよく目にしますね。耳にもします。

これは「就活終われハラスメント」の略語だそうで、他のハラスメント(セクシャル、パワー、マタニティ)の用語と比べると、ハラスメントの接頭語(?)が日本語なのが特徴の造語です。

「就活終われ」という言葉から想像できるとおり、就職活動中の学生に対し、求人側の企業関係者が「就活終われ!」と命令するときに生じるハラスメント(嫌がらせ)ということのようです。

報道などもたくさんあります。

「オワハラ」って何の略? 就活日程長期化で増える懸念(朝日新聞)

「オワハラ」相談窓口活用を 内定先企業が就活終了を強要(中日新聞)

「就活時期繰り下げ」で見落とされている本質(東洋経済、常見陽平さんの記事)

採用時期が分散した今年、「オワハラ」にどう対処するか(上西充子教授の記事)

などなど。

オワハラの2系統

このオワハラの事例としてよく挙げられるものを系統で分けてみましょう。大きく分けると2系統あると思います。

まず、内定を出すから今すぐにここで他社の内定を辞退する電話をしてください、とか、内定を出すから就活ナビサイトの登録を抹消してください、などの囲い込み系が代表的なものとなります。

次に、内定を辞退した就活生に対する暴言や「内定辞退したら損害賠償をするぞ」などと述べて内定辞退そのものを妨害する言動をするという辞退妨害系も多いようです。

職業選択の自由というのが憲法にあります

囲い込み系は、企業が人材を確保したいということから生じるものです。

企業が人材を確保しようとするのは当然のことですが、就活生の職業選択の自由(憲法22条1項)を害するような態様でこれを成し遂げるのは問題があります。

就活生側は、こうした企業側の要求も労働契約締結交渉の一場面だということを意識して、理不尽な要求は断るのが理想です。

そもそも、こうした理に適わない要求を平然とするような企業で、今後働いていけるのか、疑問が生じますよね。

ただ、就活生心理として、内定を確保しておきたいという気持ちもあり、悩ましいところです。

特に内定を出す条件のように向けられると困り果ててしまいます。

ただでさえ悩ましい就活の時期に、こんなことで悩まされるとは理不尽極まりないわけです。

ただ、就活生の方に知っておいてもらいたいのは、本来、企業が優秀な人材を確保したいのであれば、他社に負けない労働条件を提示するのが筋である、ということです。

そうした努力なく、社会経験に乏しい就活生に心理的な圧力をかけて人材を確保しているようでは、その企業の先が見えるというものです。

最終的には、そうした企業には人材が集まらないことになります(たぶん)。

こうしたことを念頭に置いて、労働契約締結交渉の当事者の自覚をもって「賢く」立ち回ってください(対処法などは冒頭の上西教授の記事が詳しいです)。

辞退妨害系をする企業は高確率でブラック企業

辞退妨害系をするような企業は論外です。

そもそも、内定辞退は自由です。

企業があの手この手をもって(暴言は論外ですね)、この自由を妨害しようとしても、気にすることはありません。

損害賠償をにおわせるのも、単なる脅しに過ぎません。

このような内定辞退を妨害する企業は、かなりの高確率でブラック企業でしょう。

これはブラック企業の手口に退職妨害があることを想起いただければ分かると思います。

ブラック企業の典型的手口~退職妨害にご注意!

ですので、こうした妨害にあった場合は、内定辞退の意思をより強固にした方がいいでしょう。

内定承諾書を出すと縛られるのか?

このことは内定承諾書を出したとしても変わるところではありません。

内定承諾書を出しても、内定辞退の自由はなくなりません。

そもそも、就職して働き出した後でさえ、退職するのは労働者の自由です。

ましてや、まだ働き出してもいない時点で内定を辞退することに制約があろうはずありません。

この点、けっこうな人の間で、内定承諾書を出している就活生が内定を辞退することを、約束違反だとか、道義的に問題だ、などとする意見があるようですが、そもそも職業選択の自由があるわけですし、内定承諾書を出したところで、その企業の奴隷になるわけじゃないのですから、自らの意思で内定を断る自由は消えることなくあるのです。

内定承諾書を出したら内定を辞退すべきでない、という人は、一度勤めた会社を退職するべきではない、という意見を言っているのと同義なわけですが、さすがに現代社会でこんな意見を持っている人は、ついぞお目にかかりません。

ところが、なぜか学生の就職活動の場面になると、「勤務先を退職するのは自由だけど、就活生が内定承諾書を出したからには内定辞退の自由は認めぬ!」という考えをもっている人がいるというのが不思議なところです。

いい労働条件で人材確保するのが本筋

というわけで、何が言いたかったというと、「オワハラ」で人材確保をするのはやめて、いい人材を確保したいなら、求人の際の労働条件をよくしましょう、ということです。

こういうこと言うと、経営者の方やそれに近しい人から、お前は現実を分かってない!とのお叱りを受けそうですが、でも、少なくとも「オワハラ」による人材確保を「現実」にしちゃいけませんよね。(^_-)ー☆

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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