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菓子業界のミライ②「メゾンカカオ」100年後の未来へ、コロンビアとともに歩み続ける

笹木理恵フードライター
使用するカカオは、100%コロンビア産 ※画像提供/メゾンカカオ

日本から、世界に誇るチョコレートブランドをつくる

看板商品の「アロマ生チョコレート」 ※画像提供/メゾンカカオ
看板商品の「アロマ生チョコレート」 ※画像提供/メゾンカカオ

コロンビアの自社管理農園で、カカオの栽培からチョコレートの加工までを現地で手掛ける鎌倉発のチョコレートブランド「メゾンカカオ」。看板商品の「アロマ生チョコレート」は、コロンビア産カカオに、日本各地から厳選した素材を合わせ、日本人の舌に合う口どけに仕立てた生チョコレート。現在は日本国内に7店舗を展開しているが、バレンタインの催事での行列を目にした人も多いのではないだろうか。2019年のG20大阪サミット、即位の礼では各国大統領の機内手土産に選ばれ、最近ではANAの国内線プレミアムクラス機内食にも採用されるなど、日本発のチョコレートブランドとしての存在感は年々高まる一方だ。

コロンビアのカカオ農園 ※画像提供/メゾンカカオ
コロンビアのカカオ農園 ※画像提供/メゾンカカオ

メゾンカカオが掲げるのは、「Bean to Bar」ではなく、「Farm to Customer」のチョコレートづくり。近年は、産地から直接カカオ豆を仕入れて加工するチョコレートブランドも増えているが、メゾンカカオはコロンビア産カカオありきで立ち上がったブランド、というのが興味深い。代表の石原さんは、学生時代ラグビーに打ち込み、卒業後は広告代理店でトップセールスを記録。規模の大きなプロジェクトに参画し、マッチングビジネスの限界も感じていた折、旅行で訪れたコロンビアが、人生を変えた。コロンビアは、カカオの生産量が世界トップ10に入るカカオ産地であり、同時に国内消費量も多いという珍しい国。現地で食べた生のカカオの味わいや、カカオを通じて生産者と消費者が身近にある生活に魅了され、日本でもチョコレートを日常的に楽しむ文化をつくりたいと、2015年、1号店となる「ca ca o」を鎌倉・小町通りに立ち上げた。「日本発祥の、100年続くブランドをつくりたい」という思いから、歴史ある鎌倉を創業の地に選び、世界へはばたくチョコレートブランドの第一歩を踏み出した。

契約農家は年々増加。地域と共に学校を設立し、教育支援にも取り組む

代表の石原さん ※画像提供/メゾンカカオ
代表の石原さん ※画像提供/メゾンカカオ

「メゾンカカオ」で使用するカカオは、100%コロンビア産。起業して石原さんがまず取り組んだのは、コロンビアに農園をもつこと。チョコレートというプロダクトを通じた「文化の創造」の実現は、信頼できる現地生産者とのパートナーシップなくしてはありえないからだ。はじめは、コロンビア北部・ネコクリに小さな農園を借りるところからスタートし、同時に、カカオ豆を買い取りたいと申し出た。実はコロンビアは、麻薬の原料となるコカが世界的にも多く栽培されており、石原さんも現地で、子どもの貧困や虐待といった問題を目の当たりにした。そこで、コカを栽培する代わりにカカオ農園を増やすことが現地の治安や生活を向上させることに繋がると考え、長期的に取引することを約束し、カカオの生産に取り組む農家を増やしていった。現在も契約農家の数は年々増加しており、生産者のモチベーションも上がっているという。

2020年3月に完成した新校舎。壁には、子供たちが描いたメゾンのイラストやブランド名が ※画像提供/メゾンカカオ
2020年3月に完成した新校舎。壁には、子供たちが描いたメゾンのイラストやブランド名が ※画像提供/メゾンカカオ

一般的に、カカオの実が収穫できるようになるまでには4~6年かかる。長期的にカカオを安定して生産してもらうため、「生産者が安心してカカオの栽培に取り組めるように」と、2016年には地域と協働して自社管理農園のそばに学校を設立。初年度は50名弱だった生徒数は、3年後には500人以上に増え、2020年には新校舎も完成した。こうした取り組みが評価され、2018年には、コロンビアの貿易や投資促進を行う機構「プロコロンビア」より、海外企業初となる政府公認の認定マークを授与され、2020年ドバイ国際博覧会には、コロンビア認定ブランドとして「メゾンカカオ」が出展。2022年2月には、現地で「メゾンカカオ財団」を立ち上げ、今後はスポーツや芸術、音楽など、幅広い活動を行なっていく予定だ。

サステナブルなモノづくりをめざして

2022年2月に完成した茅ケ崎工場 ※筆者撮影
2022年2月に完成した茅ケ崎工場 ※筆者撮影

コロンビアとの長期的な関係を築くとともに、日本国内では2020年よりグランスタ東京店、ニュウマン横浜店、名古屋タカシマヤ店を相次いでオープン。コロナ禍で急成長を遂げている。2022年2月には、よりサステナブルな経営をめざし、茅ケ崎で新工場が始動。「大量生産が目的ではなく、クリエイティブなものづくりを可能にするための場所」という位置づけで、手作業を大事にした味づくりはそのままに、工場にはアートや遊び心を取り入れ、社員のモチベーションが上がるような空間になっているのが特徴だ。また隣接する第2工場は、「アロマ生チョコレート」や、日本の四季折々の食材を使った季節限定の「旅するメゾン」シリーズに使うフルーツの加工工場として稼働予定。これまでも国産の素材にこだわってきたが、今後は自社で生産することを目標に農業法人を設立し、現在はいちご栽培に取り組むほか、カカオに関しても、栽培から発酵のプロセスまでを日本で完結させるというプロジェクトが立ち上がっているという。「日本の高度な発酵技術を活かして国内でのカカオ発酵に取り組み、いずれはコロンビアにもその技術を伝えていければ、現地のカカオの品質向上にもつながると考えています」。こうした取り組みは、カカオの生産国(発展途上国)と消費国(先進国)に分断された構図を塗り替える可能性すら秘めているように感じられる。

2022年5月、茅ケ崎工場では、近隣の住民向けに小さなマルシェが初開催された。「湘南で永く構えさせていただく工場として、地域の方々にもっと身近で日常的に楽しめる場でありたい」と開催されたもので、今後は地域と共同開催していく予定だという。「コロンビアと同じように、日本でも地元の人々を大事にしながら、地域に愛されるブランドに育てていきたいです」。

※「菓子業界のミライ」シリーズでは、今後も新しい取り組みで、製菓業界の未来を切り拓こうとする企業やパティスリー、シェフなどを取材していきます。

フードライター

飲食業界専門誌の編集を経て、2007年にフードライターとして独立。専門誌編集で培った経験を活かし、和・洋・中・スイーツ・パン・ラーメンなど業種業態を問わず、食のプロたちを取材し続けています。共著に「まんぷく横浜」(メディアファクトリー)。

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